第二十一回 昨日の友は今日の敵
(ある宣教師の手紙)
槇嶋城 ―1574年の戦略―
あー、松永さん、どうしたもんかなあ……。
角隈石宗「御屋形様、どうやら案の定といった悩みが生じたようですな?」
龍造寺隆信「あいつか、あの信用ならん爺さんか」
家臣団に加わったと思ったら、半年で忠誠度がレッドゾーンだよ。この人、いわくつきの転職でキャリアアップしてきたにせよ、ちょっと早すぎはしない?
甲斐親直「已むを得ませぬな。かくなる上は城井谷へ押し込めて……」
角隈「それこそ、あの老人に御屋形様を見限らせ、爪牙を砥ぐ機会を与えることにはなりはしませぬか」
大丈夫、余りの豹変ぶりにちょっと呆れただけで、彼の特徴は熟知している。彼はマテリアル第一主義だからね、これまでに私が溜め込んできた茶器の中から、お好きなものを就職一時金代わりにプレゼントしてあげれば、一も二もなく態度を変えるよ。大丈夫。これは『武将風雲録』辺りからの常套手段だよね。
龍造寺「(……そういや俺もなんか貰って丸め込まれたっけか……まあ、今が楽しいからいいんだが)」
甲斐「では、かの老人の話はここまでと致しますが。そろそろ備前、備中の軍勢が出陣に差し支えない程度、再編されたやにござりまする。彼ら当地へ呼び、御屋形様は二条城へ戻られてはいかが」
そうね、私がいつまでもここに張り付いている訳にはいかない。他のプロジェクト立ち上げとかもやらないといけないし、ここは交替チームに力強く前進してもらって、私のために時間と距離、双方のバッファを作ってもらおうか。
角隈「されば、いずれを攻められまするか?」
藤堂高虎「それなら、六角でしょうな」
藤堂「六角の本城・観音寺城は堅固の誉れ高い城ですが、所詮は南近江にわずかな所領を持つ身にては、御屋形様……いえ、天下様の軍勢を押しとどめることなど到底できますまい。ましてや、憚りながら拙者が退転したうえは、六角家にさしたる人材もおりませぬ。三月もあれば、勝負はつきましょう」
龍造寺「(上方はこえぇな、こういうやつがあっさりと主家を乗り換えて、おべんちゃらを言って出世を狙ったりするんだな)」
甲斐「(力ある主を見分け、仕えるも武士のならい……とはいえ、ここまで掌を返せるのは、相当なものですな)」
OK、んじゃ、そのプランを採用しましょう。鍋島、紹運、長宗我部、歳久の4部隊をコアにして、木脇君をサポートにつけよう。
角隈「まことによろしゅうございますか、それらの諸勢は大和攻めに合力させた方が……」
甲斐「さりながら、大和は一朝一夕に攻略できまい。今、大切なのは攻め易きを攻むること。六角攻めはよいお考えにござりまする」
ほい、ではその方向でみんなコミットするように伝えてくださいな。で、我々は二条城へ撤収します!
―二条城―
と、いう訳で君の提案通り、中国地方の兵を前線へ大幅に動かしたよ。これをベストなオポチュニティとして捉えてもらえると思うかい?
黒田官兵衛「備中における我が方の兵力は、これで備中高松城に残る島津義弘殿以下、二万程度でありましょう。おそらくは、この撒き餌を前に、我慢しきれますまい」
我々が今一つ近畿で押し切れない理由は、中国地方を完全に掌握していないことによる、兵力不足。君のアナライズは正しいと思うし、毛利との関係は次のフェーズへ移るべきかもしれないが……
官兵衛「元就公の後を継いだ三兄弟は、己が家を大友家に囲まれている現状を善しとするには、いかにも血の気が多すぎまする。今でなくとも、いずれ我らが隙を見せれば、必ず喰いついてまいります。なれば、こちらから誘い、仕掛けて貰った方がやりやすうござる」
全く正しい。だからこそ、君のプランをプッシュしたが、この仕掛けが上手く働かない可能性は?
官兵衛「残す将兵がこれ以上でも以下でも、うまくはいきますまい。大丈夫、義弘殿であれば、五倍の兵を相手にしても、まず半年は持ちこたえましょう」
そうだな。彼と、君を信じよう。
―観音寺城周辺―
高橋紹運「進め進め! 観音寺城がどれほどの城であろうとも、大友に手向かう者は完全撃滅だ!」
島津歳久「やれやれ、今回は兄貴がいないと思ったら、今度はこいつかよ」
紹運「どうした、随分とつまらなそうな顔をしているではないか、島津殿!」
歳久「この状況、俺が楽しんでるとでも? なんで? どうして? 理由を言ってくれよ」
紹運「何故と問われれば……」
歳久「あー、いや、まった。まずい、第二陣の鍋島たちが織田軍とぶつかっちまった。二条城に早馬だ、俺たちの作戦が織田を刺激してる。攻め寄せてくるかも、って伝えるんだ」
―二条城―
織田が引っ掛かったか……。連中が出てくると、道雪が大和攻めを再開するだろうけども……兵力のリコンストラクションがコンプしてないんだよね。多分、失敗するだろうな。根本的な見直しをしない限り、あそこは泥沼だわ。
角隈「御屋形様! 一大事が出来いたしましたぞ! 只今、毛利隆元より使者が……」
ん、分かってる。アライアンス解消でしょ。多分、秒速でこっちの要所を狙ってくるだろうけどね。手は打ってある。
龍造寺「つうか、毛利もよく決断したな。いくら備中辺りの主力軍が東進してるたぁいえ、四国の吉岡長増、土居宗珊、九州の蒲池鑑盛、高橋鑑種の四軍団は、兵を抱えたままじっとしてる。下手に動いたら……」
甲斐「御屋形様、これは、毛利を罠にはめましたな?」
何とでも評価できるけども、ファクトベースで話をすれば、毛利が攻めてきたってことだけ。だけど、これはさっきも言った通り、手は打ってあるので万事OK。という訳で、六角攻めをやってる連中は、タスク完了後、中国へ直帰。近畿各城の軍勢は、中国と大和の動向をよく見て、事態の変化に対応できるよう、準備をしっかりさせとくように指示してくれ。
―備中高松城―
島津義弘「なるほど? 御屋形様の書状通り、毛利が攻めてきた。連中を少しでも長く足止めするのが、今回の俺たちの任務だな」
平岡房実「んゥー、義弘ちゃん、力んでますなァ」
義弘「連中を裸にし、八つ裂きにしてやる。連中の人生を木っ端みじんにぶっ潰す」
高橋鑑種「諸君! 我らが平時に有って乱を忘れず、日々鍛錬を欠かさなかったはこの日の為ぞ! いいか! すべては大友家のために! ……やや、誰も聞いておらぬ、士気が上がったのはわしだけか?」
三田井親武「あれまあ、殿。久しぶりの戦だからって興奮して、やり慣れないことをするから恥をかくんですぞ」
蒲池鑑盛「高橋殿はその辺りでのんびりご覧になっておるがよい。一番槍は、この蒲池鑑盛が頂いた!」
―二条城―
かつて九州を発つときに高橋・蒲池の二人に言い含めていた作戦通り、九州の軍団が毛利を西から攻撃し始めたね。毛利へのカウンタープランは昔から準備していたから、実際、時間が経てば経つほど、力の差が開いていたもんで、状況は我々に有利になるようになっていたのさ。まもなく四国の吉岡・土居の両軍団も攻撃を始める。毛利は辛くなっていくぞ。
角隈「なるほど……しかし、戦にならねば、それに越したことはなかったのですが」
甲斐「已むを得ませぬ、毛利ほどの力を持った大名が、唯々諾々と我らの軍門に降ることは考えにくいことでございました」
龍造寺「おう御屋形、いい報せと悪い報せがあるぜ。どっちから聞きたい?」
ん、おう。では、いい報せの方をお願い。
龍造寺「えっとだな、六角の観音寺城、陥落したぜ」
ふむ、これはプラン通り。では悪い報せは?
龍造寺「大和を攻めた立花軍団がまた敗退した。しかも道雪子飼いの小野鎮幸が討死したらしいぜ。
うーん、毛利は型にハメて決着させられそうなんだが、とにかく大和が戦略のボトルネック化してしまっている……官兵衛と蒲生氏郷、島津家久を呼んでくれ。ちょっと彼らを加えて計画をリバイズしよう。ここで一気に攻撃にシフトしていくぞ!