多少の質は量で押しつぶす
(ある宣教師の手紙)
府内館 ―1559年の戦略―
はいミーティングはじめまーす。昨年度に九州全土が敵に回ってしまったということで、360度どこを見回しても戦するしかない状態です。というわけでイシューを明確に持ってプランの見直しを進めていきたい。
角隈石宗「(いしゅー……とはいったい……)御屋形様、事は重大なれば、なにとぞ各武家の当主を呼び、合議なさってはいかが」
吉岡長増「左様ですな。おひとりで采配を振るわれて局面が悪化すれば、御屋形様の声望は地に堕ち、土持、高橋辺りは離反せぬとも限りませぬぞ」
重役会議招集してると、決断と行動にラグが生じるし、スケジュールが一層タイトになるから却下。とりあえずこのメンバーでアイデア出しあって、ブレストやっていきましょう。多少突飛な発想でも構わないよ。
甲斐親直「……されば一旦、南進は諦めるがよかろうと存ずる。撃ち易きを攻むるが兵法の常道なれば、まずは龍造寺を併呑なされ」
一萬田鑑実「また、筑前、豊前の大内勢は戦力を減らしております。こちらにも反撃を行い、後顧の憂いを断つが、モアベターと存じますがいかに」
うん、そうだね。その方向性は間違っていない。さらに状況を確実にするために、新たなステークホルダーとアライアンスパートナーになっておこうと思う。木脇くん、その準備は?
木脇祐守「ははっ。将軍家を通じ、既に手ごたえは得ております。あとは条件次第かと」
よっし。では龍造寺と九州の大内勢を滅ぼし、北九州一円を我が大友家の手に!
吉岡妙林「嗚呼、なんて雄々しいお姿。素敵ですわ、義鎮様!」
はっはっは、いつも褒めてくれてありがとう!
―肥前・勢福寺城。龍造寺家の評定―
龍造寺隆信(龍造寺家当主)「んで、戦の状況はいまどうなっておるんじゃい」
鍋島直茂(龍造寺家家老)「そうですね、あまりフィルタかけるのもなんですから、ファクトベースでご報告いたしますがね。殿、大友とのコンフリクト、ちゃんと考えてました?」
鍋島「肥前鹿島城は、戸次鑑連の猛攻を受けています。控えめにいって落城寸前ですね」
鍋島「村中城は、大友義鎮以下の総攻撃に晒されています。言葉を選ばずに言えば、失陥は免れません」
龍造寺「バカヤロウ、どっちも駄目じゃねぇか!」
鍋島「そりゃまあ、殿が北九州のイニシアチブ握ろうとして、大友とのアライアンスを解除しましたけど、そのタイミングが早すぎたってことです。大友との競合に際して、島津の北上に期待し過ぎた結果すね」
龍造寺「だが大友のヤロウ、戦下手って話だったじゃねぇか……。随分評判と違うな、ええ?」
鍋島「そんなエビデンスも不確かなウワサに賭けた殿がいけないんですってば……。で、どうします?とりあえず残った城を死守したいとことですけど、現状ではちょっと望み薄っすね」
龍造寺「だからって、やらねぇ訳にもいかねぇよ。頼むぜ」
直茂「ま、むりくりやってみますよ。もうリスクマネジメント云々って段階でもないですしね。じゃ、行ってきます」
龍造寺「(しかし相変わらず何となくしか分かんねぇ話をするよな。天下にあんなしゃべり方するヤロウは他にいるのかね?)」
―筑前・秋月城―
さてさて、大内が相変わらずこちらへちょっかいを出したがっているようだが……状況の整理をしようか。
一萬田「はっ、まずは肥前の状況から」
ま、そうね。龍造寺には悪いが、もはや実力差は歴然だったからこれは当然。
一萬田「また、足利将軍家の仲介により、毛利家との盟約締結も成功しております」
よしよし、大内はこちらを包囲したつもりであっただろうけども、これで形勢は逆転。こちらが逆包囲に成功だ。おそらく完全に進退窮まっただろうね。
木脇「さて、それではこの後のご差配は如何様に?」
そうね。龍造寺戦線をフィックスしてしまおうか。蒲池家にメール出して、龍造寺領攻撃のゴーを指示して。で、大内の攻撃が止んだら、我々もそちらへ参加していこう。
角隈「一気に龍造寺に止めを刺されるおつもりですな」
甲斐「確かにもはや時間をかける必要もござりませぬ。よいご判断かと」
蒲池鑑盛「ふふふ、龍造寺め、破れかぶれで出撃してきよったが、無駄なあがきよ。もはや大局は決した。ゆっくりと料理してくれるわ」
湯地定時「なんか、わしらの方が悪役のような言い方をなさいますな」
蒲池「いやなに、肥前切り取りの指示があまりにうれしくてな。ふふふ」
……なんか、蒲池がえらくドライブかけて龍造寺攻めをコンプしたね。いずれにせよ、これで肥前は我々の支配するところとなった。手に入れた城は蒲池家と高橋家に分け与えて、と。さて、これも嬉しいことだが。
角隈「龍造寺の家臣団を取り込めるのが、よりうれしゅうございますかな?」
さすが石宗、よく分かってる。島津のクオリティに対抗する上で、こちらのメンバーは少し不安な所があったけども、龍造寺家臣団はこと戦闘にかけては島津に劣らないレベルだ。今後の我々にとって非常に大切なリソースになってくれるよ。
甲斐親直「……何人か引見なされますかな?」
そうね、あ、でも龍造寺四天王はいいや。
成松信勝「!?」
木下昌直「!?」
円城寺信胤「!?」
百武賢兼「!?」
いや、残念なことに、江里口信常がまだ元服してなかったのよ。だから彼らの「五人そろって龍造寺四天王!(ツッコミ待ち)」っていう定番のコントをやらせてあげられないから、まあ一種のやさしさだよね。
甲斐「容赦なく、連中の十八番を潰されましたな……」
一萬田「御屋形様、鍋島直茂が挨拶に参上いたしました」
あっ、どうぞ入ってください。
鍋島「失礼いたします。龍造寺家で家老職を務めておりました鍋島直茂と申します。これまでは軍政両面で当主のサポートを行っておりました。分裂していた肥前一帯をまとめ上げた経験とスキルには自信があります。御家の九州制覇という目標に共感し、また、これまでの経歴を生かして貢献できるものと思い、応募いたしました」
はい、採用決定。明日からよろしくお願いします。
鍋島「ありがとうございます」
角隈「いやいや御屋形様、何の茶番でございますか、今のは!?」
いやね、もともと龍造寺家を攻略した一つの狙いは、実は彼のヘッドハンティングにあったんだよ。鍋島直茂は年が若く、全ての能力がハイレベル。これは得難い人材だよ。これからずっと私の力になってくれるに違いない。
角隈「は、はぁ……(うーん、鍋島の若造、御屋形様と似た雰囲気を感じる……)」
鍋島「よろしくお願いいたします(なるほど。大友義鎮、確かに私と同類のようだ。シンパシーを感じる。これはよい転職であったかもしれない)」
吉岡「御屋形様、四国の西園寺家より使いが参っておりますぞ」
おっ、唐突だが、ここでみんなに発表だ。
角隈「むっ、こちらの方面へ一層の注力を?」
甲斐「四国の一角が血を流さずして大友の領土に……。目出度いことですが、九州もまだ不安定なうちに、四国に直接お出ましなされるは、新たな敵を作る素になりますぞ」
そのリスクは承知の上さ。いずれ伊予や西土佐の小大名は、物量にすぐれる三好や、人材豊富な長宗我部あたりに取られるのは目に見えていた。連中と戦するとなればこれは大変だが、今のうちにこうやって我々の勢力を広げておけば……
角隈「なるほど、来るべき時に備えての足掛かりに、と……」
甲斐「となると、御屋形様は九州の外のことも既にお考えに?」
ははは、まあそこら辺についてはもうちょっとしたら説明するつもりだよ。みんなに新しいアジェンダを共有して、働いてもらいたいからね。さあ、勢いにのって大内を九州から追い出してしまおうか!