第二十六回 燎原の火が如く
(ある宣教師の手紙)
二条御所 ―1580年の戦略―
???「お上、評定の刻限である。早々の出座を」
うぉう! びっくりした! 信長が評定を取り仕切ってるって、えっらい剣呑だな! そもそも、彼をルーキーとか家臣とか言っていいかどうかも分からないし……さすが『創造』の人だから、相性は悪くないんだけれどさ……。
やれやれ……やたらと怖いけど、本人は乗り気っぽいし、このまま評定始めようか(こっちで変えられたらいいのに。怖いから)。……えー、まず、彼以外のルーキーのOJTは各々あとでやっといてね。さて、マスタープランは順調に流れてるよね。パラで進めるのに無理は出てない? シナジーしないでどこかだけ突出しちゃうと、そこから崩れかねないから、みんな逸り過ぎるのだけが心配だな。
角隈石宗「その辺りは心配ございません。官兵衛殿が上手く手綱を引き締めておられますな」
甲斐親直「立花軍団の進軍に関しては、長宗我部元親殿が巧みに調整しておられます」
龍造寺隆信「厄介そうなのは中山道だな。同盟組んでる上杉の軍勢がなんでか大垣を通って近江から越前へ戻ろうとしているんだが、それと島津歳久以下のわが軍がお互いに通れず、お見合いしてるみたいだ。正直、邪魔だぜ」
ふーむ……こちらがルートを譲るのもばかばかしいし、我々のプランの中で、上杉は最早ステークホルダーでは無い……。
信長「お上、ここはスピード感あるディシジョンメイキングこそ肝要ぞ」
角隈「(おっ、こやつもかッ)」
甲斐「(似通っておる……のか?)」
だな。信長殿の言うように、上杉とのアライアンスはここまでだ。中山道へさらに別動チームを派遣して、飛騨から越中を攻略させよう。
信長「越中を落とし、上杉の本貫地と能登・加賀を切り離し、デフォルトさせる、と……」
龍造寺「あー、んー、上杉の領地は東西に延びてるから、分断して別々に撃破してこう、ってことだな。よっしゃ、そういうことなら俺たちにもやっと出番が回ってきそうだぜ!」
よっし、信長殿はチームを連れて、中山道のヘルプに行っておくれ。我々は後瀬山城に集結して金ヶ崎城から上杉攻めを始めるぞ!
―三河・岡崎城―
高橋紹運「よし、このまま押せ。徳川を完全撃滅し、駿・遠・三を御屋形様に献上申し上げるのだ!」
長宗我部「……そう焦るな。無理攻めせずとも、敵は守りに忙しく、必ずほころびが生じる。そこを一つずつ突いていけばよいのだ」
―美濃・苗木城―
萱場元時「くっ、長滞陣で兵糧が尽きておるのだ。抵抗などできようはずもない……」
歳久「悪いな、こっちも仕事なんだ。昨日の友は今日の敵、ってね」
藤堂高虎「これを見越しての対陣でござったか。やはり御屋形様、いえ、将軍家の深謀遠慮は、我らの及ぶところではない」
小早川隆景「そうですね(結果的にそうなっただけだろうが、運のよい男め)」
―若狭・後瀬山城―
おそらく飛騨方面で作戦活動中のこちらのチームに引っかかって、越後の上杉軍はこっちまではこないだろう。という訳で、能登・加賀を守る部隊が、我々にとコンフリクトを起こす、ってことになるだろうね。
島津家久「大丈夫? 調べたけど、上杉軍の戦力は侮れない数だよ。まともにぶつかれば、こちらもただじゃすまないだろう」
龍造寺「だがよ、道は一本。お互いにガチの力比べしかねぇんだ。そう考えりゃ、俺らが負ける要素も無かろうがよ」
蒲生氏郷「進軍準備は整っております。何ごとも神の御心のままに」
うん、緒戦は想像通り。ノープロブレムだわ。
甲斐「この程度の山城、御屋形様の城攻めの相手にはなりませぬな」
角隈「あとは上杉がどこで守りを固めてくるかが、肝心にございます。損耗に備え、援軍を呼び寄せましょうぞ」
家久「援軍? ああ、中国・四国の兵を抑えに呼んであるが」
龍造寺「そいつらが到着するまでに上杉がやけくそな攻勢に出てこなければ、勝ちは決まりそうだがな」
ええーい上杉め、悪あがきが過ぎる! だが、ここを凌げば戦線は押し上げられるはずだ!
―中山道―
長宗我部「木曽福島城、桜洞城、飯田城と落としてきた。これで飛騨は大半掌握し、南信濃に取りつくことができたな」
小早川「そうですね(上杉と徳川が連携でもできていれば、こう上手くは行かなかっただろうが)」
吉川元春「なんでもいい、とりあえず戦わせろ」
長宗我部「信濃の要は、まず深志城であろうな。我らは体勢を整え次第、あの城を攻め落とす。何か問題は?」
歳久「問題? いや、ないよ。ないですー」
小早川「そうですね(深志は南北に交通の便が良く、どちらも敵だ。うかつに攻め込めば包囲されよう。問題しかあるまいが……)」
―越前・金ヶ崎城―
さて、一旦引き返してきた官兵衛君、フェーズ進捗を確認させて下さい。
黒田官兵衛「はい。東海道は特にこれといって何もなく、粛々と進軍中で、犬居城を抜き、浜松城を包囲しました。まもなく攻略が終わりましょう。中山道では高原諏訪城は攻略いたしましたが、深志城は上杉・徳川の軍勢に阻まれて、攻略失敗です。長宗我部殿に替わり、織田殿に采配を委譲し、再攻撃を企図中でございます。あとは御屋形様の北陸ですが……」
島津義弘「御屋形様、杣山城を落としたぞ。家久がちょこっと虐めて降伏させた」
官兵衛「……ということでございますので、いよいよ本格的に能登・加賀へ踏み込む足掛かりを得た所、と申せましょう。さらに……」
官兵衛「……というように、各大名への切り崩しも引き続き仕掛けております。こちらに心を寄せる者の数は多く、十分な効果を期待てきましょう」
角隈「さて御屋形様、これに絵図をお持ちしております」
甲斐「もはや大河の堤が切れたようなもの。荒れ狂う奔流を、枯れ枝や端切れで押しとどめることはできますまい」
龍造寺「あとはどれだけの年月で全て決着をつけられるか、だぜ」
そうだね、北条や伊達の噂も聞くけど、もうやることに大差はない。ネギを一枚ずつはがしていくようなもんだ。油断だけしないようにマスタープランにブラッシュアップをかけて、しっかりと終わらせていこう。