第14節 ベンチ外で花を愛でる日々
―試合ダイジェスト―
- DATE
- 8月30日 ヨーロッパリーグ 予選
- VS
- ロス・カウンティ(A)
- SCORE
- 2-0
※2戦合計5-0でアーセナルがグループステージ進出
プレミアリーグ開幕戦でトテナム、第2節で難敵マンチェスターシティを破ったアーセナルは、ヨーロッパの舞台でもスコットランドのロス・カウンティを寄せ付けず、ホームで3‐0、この日のアウェイゲームも2‐0で勝利。格の違いを見せつけました。
9月1日 ロンドン -アーセナル練習場-
黒田官兵衛「おや? 月日が経つのは早いですな?」
おや、じゃないよ。見てたでしょ、月日が無為に過ぎていくのを。ひたすら個人練習と、ピッチ脇によく分らない草の花が咲いて「あー、きれいだなー」みたいなことをやっていたのを。
官兵衛「そうですね。リーグ開幕は8月頭、ここまで2節を終えていますがあなた様の出番はゼロ」
山本勘助「それでカップ戦要員かと思いきや、かなり格下のロス・カウンティ相手でもメンバー入りすらできず。なんと8月は試合出場そのものがゼロです。夏休みですかな」
いや、正直なところですね。シーズン開始前にジルーが移籍していったじゃないですか。FWの層はかなり薄くなったわけだよね。
官兵衛「昨シーズンの(ゲーム内)チャンピオンズリーグはバイエルンが獲っておりましたから、彼にとっては栄転かもしれませぬな」
勘助「まあまあ、確かにチーム編成的にストライカーは、ラカゼットか貴方様しかおらぬと申せましょうな」
で、プレシーズンでは4試合全部出て、ストライカーも左のウイングも試されて、8月の数値的な目標も監督から貰って、さあそれじゃあ頑張るぞ、と思ったら、この扱いだ。もはやたまらぬ。
官兵衛「……なんですと?」
勘助「早まられますな。シーズンは始まったばかり、今、ここで移籍は……」
官兵衛「確かにまだ移籍市場は開いておりますが、そう簡単に移籍先は見つかりませぬぞ。なにせステップダウンの移籍が中々起きませぬゆえに」
そこはそれ、秋山氏に連絡を取って、欧州各国のビッグクラブの意向を探ってもらっておいたんだよ。
秋山信友『えーっと、スペインのレアル・マドリードとバルセロナ、それにフランスの金満クラブ、パリ・サンジェルマンが興味アリみたいなこと言ってますね。出世したもんだね、君も』
……と、電話口で若干無礼なことを言われはしたが、少なくとも移籍先が無い訳ではなさそうだ。チームも移籍志願を認めた。
官兵衛「確かに、この一月の扱いは、選手としては納得の行くものではありますまいな」
勘助「実働半年でクラブを見限る、というのも、やや寝覚めが悪い気はしますが……」
いかにもそのような考えも有ろうが、「七度主君を変えねば武士とはいえぬ」という藤堂高虎の言葉にも一理あろうと思う。私も、真の武士、まことのフットボーラーを目指すために、ここで主替えをしようと思うのだ……ん? 携帯鳴ってる。私のかな?
勘助「なるほど、それほどのご覚悟で挑まれるのであれば、この勘助、力の限りサポートを……」
あ、なんか次の試合でメンバーに入れるって、監督から今メールが来たわ。明日は取りあえず試合だー。
勘助「おやっ」
官兵衛「あらら、ヘソを曲げられて監督が折れた、ということでしょうかな?」
- DATE
- 9月2日 プレミアリーグ第3節
- VS
- フラム(A)
- SCORE
- 4-0
- GOAL
- 27’ ラカゼット(ARS)
- 43’ 90’ 内藤(ARS)
- 82’ ラムジー(ARS)
開幕から難敵に2連勝と、久しぶりに期待の高まるスタートを切ったアーセナルは、クレイヴン・コテージへ乗り込んで、プレミア復帰を果たしたフラムとの一戦です。
アウェイチームでは、3トップの左で内藤がシーズン初の先発。高額の移籍金で加入した先シーズンは目立てなかったストライカー、輝きを放てるか。フラムは4-3-3の形で、1トップには元アーセナルのルイ・フォンテ。
開始早々からアーセナルの鋭い攻撃がフラム守備陣を襲います。ラカゼット、内藤、チェンバレンの連係から何度もゴールに迫り、それが最初に実ったのは27分。内藤のクロスをラカゼットがワンタッチで押し込んで、アーセナルが先制します。更に前半終了間際には、内藤にもシーズン初ゴール。
後半も主導権を握ったのはアーセナル。フラムはアーセナルFWの突破を防げず、危険な場面を何度も作られますが、GKベッティネッリが好セーブを連発。かつてはU-21イングランド代表にも召集された実力派、簡単にはゴールを許しません。
FWがダメならその後ろで。司令塔を務めていたアーセナルのキャプテン、ラムジーが自分でゴールを狙いに行きます。82分のことです。
この一撃で試合は決着。試合終了直前には内藤がこの日2点目のゴールでダメ押し。久しぶりの登場となった日本人FWのマン・オブ・ザ・マッチに輝く活躍で、アーセナルは3連勝。依然好調です。
―試合ダイジェスト―
- DATE
- 9月16日 プレミアリーグ第4節
- VS
- ウェストハム(A)
- SCORE
- 2-1
- GOAL
- 30’ 89’ 内藤(ARS)
- 65’ イヘアナチョ(WHU)
- DATE
- 9月20日 ヨーロッパリーグ グループステージ第1節
- VS
- クラブ・ブリュージュ
- SCORE
- 1-0
- GOAL
- 80’ エジル(ARS)
ロンドン -アーセナル練習場-
リーグで2戦連続出場、連続2ゴール、連続週間ベストイレブンを獲得。やはり私は出ればできるプレイヤーなのだ。監督もこれで分かってくれただろうか?
官兵衛「フラム戦は左のウイング、ウェストハムとブリュージュ戦は3トップの真ん中でのプレーとなりました。どちらでも活躍できるところを見せつけたのは、良いことでしょう」
勘助「アーセナルはやはり周りに上手い選手が多いので、ボールを欲しがってポジションを離れたり、ずるずると後ろに下りる癖をなくせば、より評価も上がってまいりましょう」
欧州の舞台で活躍できなかったのは悔しいな。アシストできたから何もない、という訳ではなかったが、やはりゴールを奪わなければ評価は低い。
官兵衛「ノーゴールのブリュージュ戦は6.3。プレミア2試合では9.5、9.6でしたから、確かに落差が大きいと申せましょうな」
勘助「全体の平均値を安定させてまいらねば、レギュラーとして定着することは難しくなりましょう。結果の出ている今、結果を出し続けて、確たる立場を築かねばなりません」
うん、好調な時ほど次への準備が肝要であるな……ん? 携帯鳴ってる? 私のかな?
官兵衛「(そういえば移籍の話はどうなりましたかな)」
勘助「(秋山殿によれば、新たにアトレティコ・マドリードも調査を始めておる様子とか)」
官兵衛「(ふむ……移籍先候補はどこもハイレベルなストライカーを揃えている。どこへ行っても、今と大して変わらぬ扱いを受けるやもしれませんな……)」
あのね、今ね、監督からメールが来てね。……次のリーグ戦、メンバー外ですってー。ぼく、33億でここに来たのになー。
勘助「は? 次戦までに、体力は十分に回復するはずですぞ。ターンオーバーは必要ござらぬが……」
官兵衛「3戦4ゴールの選手を外しますか……」
やはり、本気で移籍先を探そう。こうなったらいくらでもクラブなど替えてやるぞー!
この言葉を残した藤堂高虎は非常に世渡りに長けた人物で、君主を何度も変え、最終的には徳川家康の信頼を厚く得て、伊勢三十二万石の大大名となりました。ちなみに江戸時代末期の藤堂家は、徳川幕府から新政府にあっさりと乗り換えて、周囲から「その行い、藩祖に似たり」と罵られたそうなので、転職癖は家風っぽいです。さておき、内藤さんの世渡りが上手いかどうかは……。