リゴレのレポート≪リゴレぽ≫ 第3回 店長と『ワードスナイパー』 presented by 鳳林

ボードゲーム愛好

有りそうでなかったのが、石焼き海鮮チャーハンと『ワードスナイパー』なんですよ

【リゴレのレポートって?】
「一生遊べるボードゲームをお客様にご提案したい」リゴレ店長と、「一生ボードゲームで遊んでいたい」ほ~らく奉行所の与力が、横浜中華街の有名レストランの一角で、ランチタイムにそっと繰り広げるボードゲームトークの様子をつづったレポート、略して「リゴレぽ」です。
【本日の名店「鳳林」】
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※掲載情報は2018年6月時点のものです。
【登場人物】

与力ほ~らく奉行所ボードゲーム方の買掛担当。「スナイパーと言えば、最近のスティーブン・セガールですかね」

店長横浜のボードゲームショップ・リゴレの伸居店長。ボードゲームと横浜中華街のお店選びならお任せ! 今回、本当はねじり鉢巻きに黒Tシャツで登場する予定だったのですが。

本日のテーマ1:リゴレからの新装発売となる、新版『ワードスナイパー』

与力本日もよろしくお願いいたします。今回のゲームはなんでしょうか。

店長これ(試作品)でやりたいんですけども、大丈夫でしょうか?

与力おお、いいですね。店長の熱い思いが伺えそうです。それでいきましょう。

ワードスナイパー(初版)
ワードスナイパー(初版)

『ワードスナイパー』。ゲームデザイン小川昌洋氏、イラストデザイン大下修央氏、制作ゲーミフィジャパン。ゲームマーケット2017秋で発表されたワードゲーム。カードの表裏に書かれた「お題」と「ひらがな」を使い、お題に沿ったテーマを連想する“ワードインスピレーション”をはじめ、3種のルールを遊ぶことができる。写真は初版。

与力『ワードスナイパー』は近々リゴレさんから発売される、というお話しを以前に伺っていましたが、7月7が発売日に決まったんですね。

店長はい、そうです。お値段は初版よりちょっと下がって、税込1,650円を予定しています。遊び方については、こちらの漫画をご覧いただけると嬉しいです。

ゆるゆるボドゲバカ様(@yuruyurubgbk)作の解説漫画

ゆるゆるボドゲバカ様(@yuruyurubgbk)作の解説漫画

与力これは分かりやすいですね。しかし、このゲームをリゴレさんが手がけて出版されるのは、面白いところ、光るところがある、というご判断あってのことだと思いますが……具体的にどういうゲームで、どこが良かったのか語っていただけますか?

店長『ワードスナイパー』は、名前の通りワードゲームなんですけど。何がいいかというと、遊んでてテンポが良い。気持ちがいい。

与力テンポということは……比較的軽めに進行していく、と?

店長いえ、テンポが良すぎて軽い、ということはないです。適度に全然言葉がでてこない瞬間があって、その辺りは引いたカードの組み合わせによって変化します。

与力なるほど。全員が「うっ」となる瞬間、緩急があるということですか。

店長それから、完全に自由な大喜利ほど崩れないように、ルールがちゃんと方向性をしぼってくれるのも良いんですよね。

与力「ひらがな」から始まる「お題」に沿ったワードを言え、とかでしたっけ。

店長そうです。こういうテーマから逆算して考えていく感じのワードゲームって、ちょっと無いと思うんですよ。そこに点数という“競う”概念もあるし、わくわくできるんです。

与力ワードを連想するゲームというと、比較的基準があいまいになりかねない、というところもありますが……

店長その辺りも丁度いい塩梅にしてくれるルールがあります。例えば、実際にあるものであればOK。ゲームに参加している全員が合意したらOK。誰かがOKと言ってくれたらOK。『広辞苑』に載っていればOK。と、正解の基準がいろいろあるので、調整できます。

与力ははぁ、なるほど。そこを明確にして遊べるのは重要ですね。

店長例えば「合意して貰えればOK」だったとして、「四角いもの」って言うテーマの時に「サイコロ」だったら絶対四角いですけど、「親父の頭」って言っても良いわけですよね。OKって言ってもらえるのであれば(笑)。

与力ははあ、「お前の親父の頭、確かに四角いわ~(笑)」という感じですか。そこも場に合わせて緩急が利く、ということなんですね。

店長しかもこのゲーム、ルールの説明、いわゆる“インスト”が10秒もかからないんですよ。

ワードスナイパー 試作新版
たとえば、このようにカードをめくります。(写真は試作新版)

店長実演販売というか、お客さんに体験してもらうことがありますが、その時に「じゃあやってみましょうか。カードをめくって、これだと思う言葉を言ってください。「歴史人物、ちゃ・ちゅ・ちょ」。ちゃ・ちゅ・ちょで始まる歴史人物を言ってください。そしたらこのカード貰えます」。これでもう遊べちゃいます。

与力おお、これは早いですね。

店長で、推したいポイントなんですが、ルールが簡単だから遊びやすい、というだけではなくて。ゲームを買った人って、遊ぶために誰かにルールを説明しますよね。ですからルール説明ってネズミ講式に広がるんですが(笑)。

与力マルチ商法じゃないんですから(笑)。

店長ルールが簡単で説明しやすいほど、買った人も遊ぶ時に楽なんです。ハードルが下がる。つまり、遊びやすい。そういう視点で見ると、この『ワードスナイパー』は優れたゲームだと思うんです。

与力ははあ……実に、ゲームを売る方らしい視点ですねぇ。

店長それから、繰り返し遊べるリプレイ性っていうのも必要なことですけど、『ワードスナイパー』はカードをシャッフルすれば問題も変わりますし、将来的には拡張も色々考えられる。あと、スペースも取らないので、遊ぶ場所を選ばない。いいところが本当に多いです。

いろいろな体験を提供する

店長最近、「モノではなくコトを売る」ってよく言われます。例えばビールメーカーなんかだと、「ビールを売るだけじゃなくて、ビールを飲んでる場面を伝えたい」ということを言うわけです。

与力品物を提供するだけではなく体験につなげたい、ということでしょうか。

店長そうです。これはゲームも同じだと僕は思いまして。その人にとって使いたい場面で使えるゲームを提案したい、ってすごく思うんです。

与力ふーむ。具体的には、どういうことでしょう。

店長例えば「結婚式の二次会とかで遊びたいんですけど、何が良いですか」っていう時、今までいろいろ提案してたんですが、この『ワードスナイパー』もいいゲームなんですよ。まず、対応人数が2人から6人ってなってますが、もっと増えても大丈夫。

与力お互いの声が届く範囲なら問題ないですかね?

店長ええ。リゴレで遊んでいても、「歴史人物、ちゃ・ちゅ・ちょ」って言って悩んでたら、隣のテーブルからボソッと「チャーチル」とか飛んできたりして。

与力お、飛び入り正解ですね(笑)。

店長まあそれが良いかどうかは置いておくとしても、例えは古いんですが、「みんなで街頭テレビを囲んでいる感覚」と言いますかね。

与力街頭テレビ。力道山vsシャープ兄弟とかですか? それはなかなかに古い。

店長分かりにくいかな(笑)。4人テーブルに座って遊んでて、後ろに5人立って、腰に手を当ててそれをのぞき込んでも参加できる感じですか。実演中にそういうことがよく起きたりもするんで、ああ、こういう遊び方もできるんだよね、と。

与力あー、何やってるか見に来た人が流れで参加できちゃう、という。

店長そうですそうです。あとですね、ちょっと固い話ですが、“多世代交流”って結構好きなんですよ、僕。

与力“多世代交流”ですか?

店長機会平等って言った方がいいのかな。慣れている人が上手くなる、いわば競技志向的なゲームって僕は大好きですし、絶対楽しいんですよ。でも気楽に遊ぶっていうことでは、パッと会った人同士が対等に遊べて、同じようにエキサイトできる、ってゲームも絶対楽しいんですよね。

与力ゲーム経験や体験の量に左右されない、スタートラインが全員同じゲームって感じですかね。

店長それでおじいちゃんおばあちゃんはじめ、ご年配の人と『ワードスナイパー』を遊ぶと、普段僕らが使わないような言葉とか出て来て、そういう言葉を耳にする機会の1つになるんですよね。

与力あー、なるほど。

店長例えばパッと「衣紋掛け(えもんかけ)」とか言うんですよね。僕ら大体「ハンガー」っていうから、一瞬「え、何それ?」ってなる。

与力確かに、それは耳に馴染みのない世代も多そうです。それで「えもんかけって何?」「ハンガーのことだよ」という会話に繋がると。

店長言葉ってその人の色んな蓄積だから、多世代が参加すると、そういう場面が自然と出てくる。ワードゲームの面白さって、そういうところにあるんじゃないかな、と僕は思います。

与力「カテゴリーを絞ったうえで頭の文字が決まっている」っていうのは、言葉を考えるゲームとしては、取っ掛かりがしっかりしていて、誰にでも遊びやすいと思うので、仰るようなメンバーでのゲームも成立しやすいですよ、きっと。

店長ええ、どっちか、というのは多分あるんですけどもね。

与力なおかつ、適度に緩いけれど緩すぎない、ちょうどいい感じのルールに仕上がってる、ということですかね。「ひっくり返しても崩れないプリン」というか。

店長そうですね。自由だけど壊れていない、そのラインなんでしょうね。

与力なるほど。遊ぶ場面、メンバーの話をうかがっていると、これこそリゴレのコンセプト、って感じもしてくるゲームですね。

いかにして『ワードスナイパー』新版はできたのか

与力さて、折角ですので『ワードスナイパー』がリゴレから制作・販売された経緯についての話を聞かせてください。

店長分かりました。まずこのゲームとの出会いは、ゲームマーケット2017秋の先行体験会でした。そこにゲーミフィジャパンの石神さん(*1)がこのゲームを持ってきておられたんです。

与力なるほど。

店長あ、このゲームのアイデアは自体は小川さんという方の発案で、ゲーミフィジャパンさんがそれを形にした、っていう段取りです。

*1 石神康秀氏(ゲーミフィジャパン代表兼枢機卿)

ワードスナイパー 旧版 クレジット
旧版のクレジットはこちら。

与力で、そこで遊んだら面白くて、という?

店長いえ、その時は忙しくて遊べなかったんです。でもゲムマの後、リゴレのお客さんが買って持ってきてくださって、遊んでみたら驚くくらい面白かったんです。それで「もし残ってたらうちで委託販売しませんか」って打診をしたんですね。

与力まず販売に漕ぎつけた、と。

店長ですが、その時は5個しか置けなくてですね。ところがTwitterで取り扱い告知したら、翌日には全部売り切れた。で、また5個置かせてもらったら、また翌日売り切れちゃったんですね。で、これはすごいなと思ったんですが、そこで在庫が払底しまして。それで「うちで数作って流通に乗っけましょうよ」という話をさせてもらったのが始まりです。

与力そして、デザインを一新した新版の製作が始まったんですね。

店長はい。旧版のデザインは可愛らしい感じだったんですが、商品棚に置いた時に、もうちょっと目立った方がいいな、と思って。それでリゴレで『ドロドコ』の委託とかで縁のあったASOBI.deptさんに相談させてもらったんですね。「今度うちでゲーム出したいんだけど、絵をお願いできませんか」と。

与力おお。デザイナー集団さんですね、ASOBI.deptさんは。

店長それで堀川さんというデザイナーさんが担当してくれることになって、話が進みはじめました。そこからは印刷所探しが始まります。有名どころから中国とか台湾の代理店も当たってみて、最終的には京都のポケモンカードゲームとか作ってる印刷所で決まりました。製品の品質が良いのと、国内だからやり取りも色々と融通が利きますしね。それで紙質とか箱とか選んで……って進行です。

与力月並な質問ですが、実際にゲームを制作・販売するという体験の中で、大変だったところ、想像してなかった事態とか、そういうものは有りました?

店長うーん。やるって決断するまでが一番大変だったかもしれない。12月に最初の話して、それから決めるまで二ヶ月くらいかかってます。

与力なかなか踏み切れなかった?

店長流通に乗せようよってなると、やはり数を作らないといけないんです。でも、4桁作ろうってなると最初の元手になるお金が結構大きい。払えなくはないんですけど、売れなければ店の経営が傾きかねない金額だから、その決断が一番大変でした。

与力決断までに二ヶ月ですからねえ……しかし、やると決めた。

店長はい。でも決めた段階では何が何でも売ろうと。必ず売れるんだ、という風に考えを切り替えました。でも売るための戦略はどうとか、自分が本気で取り掛かれるかとかしっかりと考えて、決めるまでに本当に時間がかかりました。正直、お金の話をしてる時は吐きそうでしたね。

「打ち合わせとか、いろいろすり合わせていくのがね、難しい」
(写真はイメージです)

『ワードスナイパー』への愛

店長おそらく多くのゲーマーさんと同じように、僕も以前から自分でゲームを作りたい、っていう考えを持ってたんですが、お店はじめる段階で、結構いい意味で価値観が広がったんですよね。

与力と、おっしゃいますと?

店長「ゲームを作りたいけど自分で全部作る必要はない」って思ったんです。デザインやイラストはその道のプロに任せて、組み合わせたものを形にしていく役を担う、っていう。それが自分のゲーム作りだと思ったんです。

与力ははあ、成程。

店長なので、面白いゲームのアイデアに出会えたら作りたいなあ、と思っていたら、出会えたんです。ほんと面白いことに。そこからとんとん拍子に進んだ感じかなあ。

与力以前、店長がおっしゃっていた「得意分野が異なる同士が組む」ことで、1つのゲームを完成させる、ということなんですね。

店長はい。で、お客さんにゲームを提案する側としては、クオリティが高くてお店のコンセプトに適合したゲームを置きたいわけです。そう考えるとこれはピッタリでしたね。興奮しましたもん。これ絶対売りたいと思って。遊んで楽しい、売りたい、置きたい。

「オーナーと料理長の連係プレイのようなものです」
(写真はあくまでイメージです)

与力そういった意味では、あらゆるタイミングが一致して出てきたと言える『ワードスナイパー』ですが、どういう風に遊んで欲しいと思いますか?

店長そうですねえ。どこでも遊んでほしいんですが、意外と夫婦でやっても面白いんですよ。まずは仲のいい人と、リラックスして気軽に、ちょっとやってみようかくらいで手にしてほしいですね。

与力例のごとく推薦の文句をつけるとしたら、なんでしょうか。

店長難しい言葉で推薦したくはないですね。「とにかく遊んでみてください」ってとこでしょうか。「このゲーム他にも同じようなのあるでしょ」みたいに見えがちなんですけど、やってみると無いんですよ。それを体験してほしいんですね。有りそうでないんですよ。有りそうでないものを作る人って天才だと思いませんか?

与力確かに。

店長デザイナーの小川さん、本当にすごいです。ルールを間違えないように遊ぶって、ボードゲームで大切なことですけど、『ワードスナイパー』は、ルールはあるけど少なくて、正解になる答えの幅が広い。そこがいいですよね。本当に可能性が広いゲームだと思ってます。可能性という点では拡張とかバリエーションとかもたくさん考え付きますし。

与力お、何かもうお考えなんでしょうか?

店長いくつか考えているものはあります。しかるべきタイミングでアナウンスできれば、と思っておりますので、ご期待頂ければ。

与力改めて発売日は7月7日。税込1,650円ですね。

店長税抜1,528円(笑)。ちょっとだけ安くなりました。

与力最初の販売でどういう感想が出てくるか、ちょっとドキドキしつつもわくわくしてる?

店長そうですね、そんな感じですね。

「一切妥協無しで作ったゲーム。スープまでしっかり飲み干してほしい」と、最後はまるでカリスマラーメン店主のような店長であった。
(写真は本当にイメージです)

本日のテーマ2:台湾ゲームについて

与力ひとつ別の話題を、ということで、6月24日に台湾のゲームで遊んだ後に、「青葉新館」さんで台湾料理を食べる、という「台湾ボードゲーム会」を開催されるそうですね(*2)。そこでうかがいたいんですが、台湾のボードゲームについて、どういう印象をお持ちなのでしょうか?

店長実は全く分かって無くて、それが分かりたくてやる、ってところもあるんですよ。絵がポップだなあ、というのはありますが。でも面白いもの作るのに国籍は関係ないから、絶対何か育ってきてるのかな、と。

与力台湾とか韓国とか、沢山ゲーム出てると聞きますから、大変ですね、店長。目を配る範囲が広くなって。

店長できるんですかね(笑)。個人的には台湾っぽさをどこで出してくるんだろう、台湾っぽさって、どういうところで出てくるんだろう、ていうのが楽しみですかね。

与力台湾らしさ、ですか。

店長しっかりしてて、少し捻られたシステムのいいゲームになってて、かつ台湾の歴史を反映して、台湾を舞台にした貿易のゲームでも、あるいは台湾の屋台をモチーフにした台湾ストリートなゲームでもいいのかもしれないし……そういうのがどんどん出てくるように応援したいですけどね。中華街で売りたいじゃないですか。

与力台湾ならではの面白いゲームを。

店長待ってます、って感じですね。

与力ところで今後も同じような企画は考えていらっしゃる?

店長はい。麻婆豆腐を食べて辛いゲームをやる……あるいはゲームに辛口の評価をつける。

与力またそんな無理やりな(笑)。

*2 会は無事に終了いたしました。

「これからのリゴレ」

麻婆ゲーム会が開催されるかは分かりませんが、これからもイベント盛り沢山のリゴレ。詳しくは公式ページをチェック。