予想以上の鬼島津(後編)
府内館 ―1558年の戦略―
―肥後・鍋城付近―
戸次鑑連「……みな臆するな、ひたすらにかかれ!」
由布惟信「ここが勝負所だ、手ェ抜くんじゃねぇぞ!」
―府内館―
一萬田鑑実「御屋形様、鍋城を落とした、との報せが参っております」
吉岡長増「ただ日向での戦、肥後での蒲池家の戦、いずれも益なく引き揚げと相成りましたな」
動員した兵力は優に30,000以上、それで落とせたのは鍋城1つ。ROIが低いようにも思えるが、やはり島津、手強いということだ。今までの感覚でシェア拡大ができる訳ではないことが、よく分かった。むしろ、これが戦国のスタンダード、ということだろう。さて、騒がしい気配がするね。
角隈石宗「御屋形様、一大事にござりまする。弟君、大内義長様より使者が参り、『約定を無かったことにする』と……!」
甲斐親直「加えて龍造寺隆信よりも約定破棄の使者が参っておりまする。北九州は全て我らが敵に回りました」
龍造寺はあり得ると思っていたが、大内がなぜこのタイミングで? 中国で毛利と争っているというのに、一体義長は何を考えてこんなことを?
吉弘鑑理「御屋形様、大内の軍勢およそ二万、我が秋月城に迫りつつあります!」
一萬田「龍造寺は島原半島の旧有馬領を目指しております。蒲池家より援軍を求める火急の報せが入りました!」
なんてことだ、なんてことだ。またリスケ、そして全ての戦線をパラで進めなければならなくなるとは! ……だが、やるしかない! 鑑実、メールを一斉に送信してくれ。コンティンジェンシープラン発動だ!
いずれ大内とは敵対関係になる可能性は捨てていなかった。そのリスクヘッジとしてこの秋月城、要塞化を指示していたわけだ。我ながら上手く先読みできていた、と思う。
吉岡妙林「先の先まで見通す分析力、素敵ですわ、義鎮様!」
長増「鉄砲も数多く備えましたので、籠城戦ともなれば二倍、いや三倍の兵までは支えきれましょう。ただ、御屋形様御弟君と戦、というのは……」
そこは、気にしない。家臣団には大友ファーストで、手を抜かないことを期待しているよ。
―肥後・高森城下―
⇒島津は戸次家マター。隙があれば、大内が肥後に持つ高森城を奪え。
由布「ええと……、……片目で島津をにらみつつ、大内を攻めろ、と。まあまたギリギリなことを仰いますな、御屋形様は」
戸次「……それを上手く運ぶのが家臣の務め。高森城、必ず落として見せよう」
由布「うちの殿さまの忠誠心は、ほんどどこから出てくるのかねえ」
―豊前・中津城下―
⇒臼杵家は秋月城の大内勢が撤退次第、豊後水道沿いに北上して中津城を狙え
有馬晴純「……臼杵家のご当主は自分で動くのは御嫌いらしいのでな。またわしが駆り出されたわ。南に北に、忙しいお家じゃな」
木脇祐守「我らのように、片田舎にて家名存続と寸土を守る戦をしておったものでは、大友の御屋形の稀有壮大な戦ぶりは、なかなか理解しきれぬところかもしれませぬな」
有馬「こやつ、随分な言いようじゃな。……しかし、大友義鎮、まあよう働く男よ」
木脇「いや、まったく。頭が下がります」
有馬「……お互いに、すでに頭を下げて命を助けられた同士、せいぜい働いてやるとしようか」
―肥前・大村城下―
⇒吉弘鑑理に日之江城を与える。蒲池家と共同して肥前を龍造寺の攻撃から守れ。
吉弘「この火急の折に御屋形様より御城を賜った上は、何としてもそのご信頼、ご恩に報いねばならぬ。龍造寺は手強いが、一歩も引くな!」
田原親賢「そう申して、みよ、あれは鍋島直茂と木下昌直、音に聞こえた猛将ではないか。しかもあれに見える馬印は、龍造寺隆信じゃ、肥前の熊じゃ!」
吉弘「情けない声を出されるな、田原殿! 守りを固められよ!」
田原「わしは嫌じゃ、もう逃げる! あとは任せた!」
吉弘「……なんと頼りないことか。たとえわし一人となっても、龍造寺の思うようにはさせぬぞ!」
―豊前・城井谷城―
大内は兵は多いがリーダーが弱い。こちらが落ち着いて冷静にアジャイルすれば、負ける相手ではなかったね。
一萬田「御屋形様、早馬が参っております」
……これで大内はアライアンス破棄の代償として、城3つを支払うことになった。彼らとしては計算が合ったのかどうか。ディシジョンが甘かったと評さざるを得ないかもな。
吉岡「さて、ここからどういたしましょうか。三方に敵を抱えていることに違いはありませぬが」
そうね。これまでの大内、龍造寺とのアライアンスを前提としたスケールは一旦捨てて、ゼロベースで考え直さないと。ただ、アライアンスの活用はデフォでやっていくつもりだ。そのためには、スコープの範囲を広げて提携先を見つけなきゃ。ま、そこら辺は重役会議で各武家のコンセンサスを得てから進めようか。
角隈「御屋形様、肥前に攻め寄せた龍造寺勢は、戸次の援軍もあり、撃退したとの報せ。大打撃を与えたゆえ、しばらく再起はかなわぬであろうとのことにござりまする」
甲斐「ただ……日之江城主・吉弘鑑理殿、防戦の最中に流れ弾に倒れ、落命したそうでございます」
……そうか。……吉弘が、か。……この緊急事態に対応するために、一番確実に頑張ってくれそうな人を昇進させた結果、命を縮めさせてしまった。……彼の息子の鎮信は無事かな?
角隈「はい。しかし、日之江城はただいま島津との最前線にも位置しております。鎮信はまだ年若く、父の替わりが務まるとも思えませぬが」
いや、鑑理の息子を粗略に扱うことはできない。父の役職をそのまま彼に引き継がせて。
甲斐「御意」
……この悲しみ、決して忘れはしないぞ。