仲良きことは美しき哉
(ある宣教師の手紙)
―伊予・湯築城―
戸次鑑連「……どうだ、長宗我部の動きは」
土居宗珊(元一条家家老)「中村御所にて数多く兵を集めておりますれば、うかつに動けば本拠の岡豊城を攻められること、警戒しておりましょう。動きが鈍っておりまするな」
木脇祐守「さすがに宗珊殿、戦わずして長宗我部の動きを封じられましたか」
戸次「……彼らの兵は精鋭だが、多くはない。こちらは数において勝る。これを生かさぬ手はない」
鍋島直茂「仰る通り、彼らの領地を多方向からパラレルで攻めていけば、彼らのキャパをオーバーして戦力のショートを引き起こせます。という訳で既に手は打ってありますよね、平岡さん」
平岡房実「んゥー、まあその、それはそうだからそうしてますねェ。もちろんアレなんで、注意は必要と思うけども、あと、長宗我部はおかしなことやってますからなァ」
納富信景「(こいつはまた、御屋形様や鍋島殿とは違った形で意味の分からん奴だな……)」
河野通宣「むむ……平岡よ、つまり、伊予と土佐の間の山地のことを危惧しておるのだな? 岡豊の北、本山城を目指す途中の隘路に長宗我部の主力が伏せていると、こちらも思わぬ損害を受けかねないと、そう言いたいわけだな」
納富「(分かるんかい!)」
一萬田鑑実「成程、その辺りは心配無用にござろう。例え何が出ようが、絶対に引かぬ男を先鋒として繰り出した。長宗我部はいずれなけなしの兵をどう割り振るか、決断を迫られることになる」
土居「左様なれば、我らはいつにでも東へ進軍できるよう、準備万端整えておきましょう」
鍋島「んじゃ、そういう事で。この会議の結果は、御屋形様にエスカレしときますね」
高橋紹運「たとえ火の中水の中、大友家の敵は誓って私が完全撃滅する!」
吉岡妙林「はりきっちゃって。ウフフフ」
府内館 ―1564年の戦略―
いやー、楽だわー。
角隈石宗「御屋形様。左様に御気楽な様子で、いかがなされましたか」
だってほら、この鍋ちゃんからのメールを見てよ。長宗我部攻めはほぼ盤石だよ。こりゃ土佐までは余裕でいただきじゃないか?
甲斐宗運「……三好家が長宗我部の後に控えているのをお忘れでございますか? 昔日の面影はないとはいえ、彼らの軍勢の数は侮れませぬぞ」
龍造寺隆信「それはあれだ。島津との戦がそろそろ終わるから、そっちに向けてる軍勢を振り向けられるから、って計算だろ? え?」
ま、そうだね。実際、島津との戦はほぼおしまい。報告によると……
彼等はもう肝付、飫肥の二城に押し込んである。あとは落城するのを待つだけ。勝利確定だよ。てこずったけど、これで九州制覇さね。
角隈「おお、御屋形様、とうとう……!」
甲斐「確かに、あとは吉報を待つだけでございますな」
……終わった。九州完全制覇だ。みんなお疲れさまでした。一先ずのタスクは完了だよ。
龍造寺「おめでとさん、だな。大したもんだぜ」
甲斐「難行を成し遂げられましたな、御屋形様」
角隈「そして御屋形様、これで九州探題を名乗ることができますぞ」
うん、ありがとう。しかし、あまり喜びすぎてこの先がおろそかになっても仕方が無いので、パーティーは立食程度でそこそこにしておこう。この先のアジェンダを共有したいので、九州で呼べる武家の当主たちを全て呼び集めて欲しいんだ。
角隈「はっ、それではさっそくに……」
―久しぶりの役員会議―
さて、えー。それでは久しぶりの役員会議を始めていこうかと思うんだけども……。
高橋鑑種「はぁ、なるほど……」
臼杵鑑速「それはまあ、よろしいのですが……」
土持親成「(流石に雰囲気悪いぜ、これはよ)」
川上忠克「………むぅ」
島津日新斎「どうかなされましたかな、おのおのがた」
蒲池鑑盛「では、言わせて貰うがな! なぜおぬしが評定を取り仕切っておるのだ! いくら何でも切り替えが早すぎなのではないか、島津よ!」
日新斎「いやいや、何ごとも前向きに捉えるのは島津の家風。この上は潔く負けを認め、大友の御屋形のために力を尽くすことが今後の務めでござるよ」
土持「訳が分からんぞ、え?」
まあ、うん。さすがにちょっと驚いたけれど、そういうシステムだと思うしかないから、皆、落ちついて。さて、九州の諸武家にはこれまで大変な苦労をかけた。今日は生憎来られなかった志賀家、吉弘家も含め、それぞれに十分な褒美を準備しておいた。で、以後は各自内政にいそしみ、領土を富ませてもらいたい。
臼杵「ふむ? つまり……」
そうね、戦は終了。以後、各々には領地の発展を第一のタスクと考えてもらいたい。というわけで、よろしく!
―しばらくして―
角隈「各武家とも、あまり釈然とはしていなかったようですが、いかがでございましょうか」
龍造寺「そりゃまあ分かるだろ? 今まで戦いづめできたのに、いきなりお役御免なんて言われれば戸惑いもするわな」
まあ、既定路線だよ。戸次家だけは領地を四国へ徐々にシフトさせて、前線を担っていって、基本は私と鑑連で最前線を構築していくつもり。ただ、例の件は高橋と蒲池に伝えてある?
甲斐「はい、両人とも、ひきつった顔をしておりましたが……」
ま、将来に備えての布石は必要だから。さて、で、四国の方が予想に反して微妙に芳しくないって?
角隈「はい、鍋島直茂の策に従い、長宗我部領の土佐を西と北より攻めましたが、北からの攻撃を担った軍が道の悪さに足を取られて兵糧切れとなり、退きのきました。よって戦況はやや泥沼になりつつあります」
そうか……道路が相手では、さすがの鑑連もなかなかに苦戦か。いいだろう、私が新戦力を伴って援軍に行こうか。
龍造寺「……新戦力って、あの連中を、か? まあ確かにすっかりお前んとこで働く気満々みたいだけどよ」
そう、九州にその名も高い島津四兄弟だ。総合力の義久、武勇の義弘、知略の歳久、戦術の家久と、揃いも揃って一流の能力を誇っている。何といっても我々を手こずらせてくれた辺り、彼らの手並みの程は実証済み。ということなので、長兄・義久だけは戸次家の戦力強化に回したけど、残り三人は私の手元に置き、心強い戦力として……
島津義弘「いいか、長宗我部は必ず三好の援軍を待っている。これは逆に好機だ。引き付けて一気に叩く!」
島津歳久「一気に叩くって簡単に言うけどさ、敵の数考えてんの? 兄貴はいつもそうだよね。数の数え方が『1、2、たくさん』なんだよ。いや言いたいことは分かってる、でもね、言わせてくれ。それに付き合わされるこっちはたまったもんじゃないっての。みんな兄貴みたいに頑丈にはできてないんだよ、分かる?」
義弘「そんなことは分かってる、だが敵が目の前に来てるんだ。今、倒さなくてどうする!?」
歳久「分かったよ、兄貴は猛将だよ、すげぇ猛将。それは認める、認めるよ。だけどさ、戦のやり方ってのはいろいろあるんだよ。もっと頭を使ってさ、調略とかさ、分かる? 兜被るためだけについてるんじゃないんだよ、頭は。な?」
うーん……これは……。
島津家久「申し訳ございません、次兄と三兄は大体いつもこんな感じなもので」
あ、いや、たぶん大体想像してた通りだから、気にしないで。うん。兄弟のいいシナジーを期待しているよ。うん。
角隈「(御屋形様が気圧されるのも珍しいことですな)」
甲斐「(流石は薩摩隼人、というところでしょうか)」
……いやあ、流石に島津兄弟、圧倒的だな。特に次男の義弘はすさまじい。チートじゃないかと思うくらい強い。これは我が家のアセットになるな。さて、窪川城を落としたことだし、主力は態勢を整えるためにいったん九州へ引き上げさせようか。
鍋島「御屋形様、遠いところ出張お疲れ様です。本当はお出ましいただく予定ではなかったんですが……」
あー、いや、戦線は今のところ、こっちにしか拡大しないつもりでスケジュール組んでたからさ。ところでなんか変わったことあったかい?
鍋島「あ、はい。じつはM&A戦略を各地で展開していたのですが、因幡の山名家が従属してきたんですね。で、その証として……」
あ、そんなパターンもあるんだっけ。実の娘ではないとはいえ、娘が増えたということは、さて、どうしようか……
角隈「こ、今度は、島津の次男が婿でございますか……」
その浮かない顔は、さすがに各方面から不満が出そう、ってことでしょ? 危惧するところは分かるけれど、実力主義の大友家ってことで、納得してもらうしかないね。島津義弘は確実に強いし、長生きしそうな顔してるし、長く大友のコアコンピタンスとしての活躍を期待している。大丈夫大丈夫、不満が出る暇もないから。ってことで、この先はゴリゴリと四国を征服して、3年以内に近畿に上陸するぞ!