第26節 武田の旗をローマに立てよ
黒田官兵衛「いよいよ、やってまいりましたな。武田の軍旗が世界にひるがえる最大の好機」
山本勘助「甲府から始まってイングランドの2シーズン目。ノルマ達成は間近にございます。意外と早うございましたな」
官兵衛「まあ、ゲーム難易度がね……」
勘助「それを言いだされますな。ともあれ、いかがでしょう。この試合」
官兵衛「内藤様が活躍した上で、優勝すれば、バロンドールは濃厚やに思いますな」
勘助「どのくらいの活躍が必要でございましょうか」
官兵衛「さよう、ハットトリック……」
勘助「もはやハードルの高さを隠す気もござらぬか?」
欧州のクラブチームの頂点を決める一日、チャンピオンズリーグ決勝戦を迎えました。ここまで勝ち上がってきたのは、プレミアリーグ2連覇を決めたアーセナルと、ドイツの絶対王者バイエルン・ミュンヘン。ともに盤石のように見えますが、一枚看板でシーズンを戦ってきたアーセナルに対し、“FCハリウッド”のあだ名にたがわず、豪華なメンバーを潤沢にそろえて勝ってきたバイエルン。対照的な2チームですが、優勝してビッグイヤーを掲げるのはどちらなのか。
アーセナルは今の時点で組めるおそらくベストのメンバーを組んできました。プレミア得点王の内藤はサンチェス、アダマと揃って先発。中盤ではジャカとラムジーがゲームをコントロールし、5バックは左からゲルスバッハ、ムスタフィ、ホールディング、チェンバース、ベジェリン。GKはベテランのツェフです。
対するバイエルンの最前線はポーランド代表レバンドフスキ。その後ろにはチアゴが控え、両サイドは左に元アーセナルのニャブリ、右にミュラーというドイツ代表コンビ。真ん中はチリ代表ヴィダルとフランス代表トリソ。鉄壁のDFはアラバ、ボアテング、フンメルス、ラフィーニャという不動の4人。ノイアーが最後列からチームを鼓舞します。
泣いても笑ってもこれが今シーズンのラストゲーム。いよいよキックオフです。
-前半戦-
いやあ、これはいかん。バイエルンのプレスの早さは一体なんだこれ。ちょっととんでもない感じだな。DFは高くて強いし、多少スピードに弱いようだから裏に抜けたいが、どうしても連中の前でボールを貰ってしまう。
こんなレンジからシュート打っても、ノイアー相手にはなかなか決まらないよね。どっかで打開していきたいと思うけども、うーん。対面のラフィーニャの守備を崩せるかなあ。でも、守ってカウンター、とか安易に狙うと、レバンドフスキがやたらボール収めるから、超好機を作られそうで怖すぎる。まさに攻防一体、難攻不落のバイエルンだな……。
だが、いかなる堅陣にも必ずほころびは生じる。焦りは禁物、攻め時を誤ってはならぬ……。
ハーフタイム……
秋山信友「いやあ、苦戦しておるねえ。支配率は高いが、なかなかシュートは決定的な位置から打てない。内藤君も決定的な活躍はできんねえ」
官兵衛「おっ、この大一番、流石に取材に来ておられますな」
勘助「しかし、組織の力でどうにもならなければ、最後は個の力ということになりますでしょうか」
秋山「だろうね。3シーズンかけて磨いてきた彼の個人技術が、チームを引っ張り、救えるかどうかということろだ」
官兵衛「一対一の勝負、後半戦はそれに勝っていかなければなりませぬな」
勘助「ご武運を祈りましょうか」
秋山「み、見どころが何一つなかった……」
官兵衛「点が取れる雰囲気が一切ありませんでしたな。こうまでアーセナルが打開策を見つけられぬとは」
秋山「内藤君も全然消えてたしね
勘助「確かに……まさか、緊張しすぎて実力が出せぬということでもありますまいに」
秋山「あの顔で今さら緊張って言われてもなあ」
(ぶえっくしょい!)
官兵衛「何かくしゃみが聞こえた気もしますが、空耳でしょうな」
勘助「そういうことにしておきますか……」
秋山「まあいい、ここまでのゲームスタッツを確認してみようぜ」
官兵衛「支配率59対41、シュート6対1。90分でシュート6本は少ない気もしますが、全て枠を捉えています」
勘助「やはりドイツ代表の正GK、生半可なシュートでは決めさせてくれませぬな」
秋山「そうだな。全部枠に行ってるが、全部ノイアーがセーブできるところにしか打ててないってことだな」
官兵衛「全くバイエルンのペナルティーエリアは金城湯池。なかなかどうして崩れませぬな」
勘助「しかし延長はまずいでしょう。アーセナルは主力に疲労が蓄積していて、試合が長引くほど動きは鈍くなる。一方のバイエルンは、他チームなら不動のレギュラーになり得る選手がまだまだフレッシュな状態で控えております」
秋山「内藤君も前後に走り回っているからな。そろそろ体力切れが近い。正直、彼の所以外から点が入る予感はしないから、交代させられる前に……」
官兵衛「決めていただきたい、ですな」
-延長戦-
延長前半も試合は動かせなんだ。わが体力もそろそろ尽きるが……PK戦は回避したい。なんとかせねばならぬ……。
!! 中央が空いた! 好機!
勘助「決まった! 残り11分で1点取った!」
官兵衛「なんと遠い先制点であったことか。さあ、これで逃げ切れますかな?」
秋山「バイエルンも総がかりで来るぜ。耐えることになるだろうが、耐えきれるか」
勘助「しかし窮地は好機。バイエルンが前に出てくれば、内藤様にカウンターの機会が訪れましょう」
官兵衛「ここで勝負弱さは必要ございませぬぞ……」
-試合終了直前-
むっ、広大なスペース……わしに、わしに寄越せ! わしに任せよ!
ハビ・マルティネスのタックルが来るか、だがそれは甘い。
CBのボアテング、釣りだされてきたな。だが、わしの切り返しについてこられようか。
アラバがカバーに来た。しかし、それも問題はない。わしはそのコースは使わぬ。
あとは、決めるのみ。みよ、これが武田の戦じゃ!
- DATE
- 6月6日 チャンピオンズリーグ決勝
- VS
- バイエルン・ミュンヘン
- SCORE
- 2-0
- GOAL
- ‘109・’120 内藤(ARS)
甲府 -武田神社-
ローマでの激闘から一週間も経っていないが、もう日本に帰ってきたのだなあ。今シーズンも大変だった。取れそうなタイトルはおおむね獲れたんじゃないかな。
官兵衛「カラバオカップを取り逃したくらいでしょうかな。恐らく、アーセナル史上最高に成功したシーズンになったのだと思います」
勘助「無敗優勝に並ぶか、それ以上の偉業かと存じます。おめでとうございます」
うん、ただ、ひとつ不安材料があってね。そもそもこの企画、私がバロンドールを獲れるかどうかみたいな話だったじゃない。
官兵衛「いかにも。それまでは頑張って欧州にしがみついていただきたい、という趣向です」
勘助「改めて聞いてみると案外ひどい話ですな」
で、CLのMVPなんだけどさ、なぜかアーセナルからもバイエルンからも選ばれず……
意味が分からん。わし、一応この大会も得点王なんだけどもさ。どうしてこうなる?
勘助「分かりませぬなあ……」
官兵衛「まあ、そうなってしまったものは仕方がない。あきらめましょう。まだバロンドールの発表はされていないことですし」
勘助「活躍度からいったら、選ばれてもよさそうですが、こういうことがあると何とも言えなくなってきましたな。まこと」
でしょう。ほんと心配なんだよね。それで落ち着かないもんだから、御屋形様にご報告と受賞祈願の御祈りにきてしまったんだけ……(プルルルル)。おっ。電話?
官兵衛「もしもし。……はい、取材お疲れ様です。……あ、左様ですか、分かりました。有難うございます。ではそちらで」
勘助「その話しぶりだと、秋山殿ですな。何事でしょうか」
官兵衛「内藤様、似合うかどうかは置いておいて、タキシード持ってましたっけ?」
礼服と申せば直垂(ひたたれ)だが、このご時世なかなか持ち出しづらいから、一応タキシードも持っておらんではない。しかし似合うかどうかって、どういうことだそれ。
官兵衛「まあ、持ってるならいいです。じゃあ行きましょうか」
へ?