人間五十年 化天のうちを比ぶれば
1582年 本能寺は謀反の炎に包まれた! 信長は死に、信忠は切腹し、天下静謐は絶望的に見えた。だが、希望は死に絶えてはいなかった!
???「うーん…うーん…お館様…大河に出たければ越後から琉球を攻めろ…などと…あまりにご無体な…」
???「おい、今は寝ておる場合ではない。はよう目を覚ませ」
???「ん、んん? ……あれ? おや?」
???「信長が死んだぞ。武田を滅ぼした信長が死んだ」
おや、一徳斎(真田幸隆)…ではない。よう似ておるが。はて? んん?
真田昌幸「なぜお前の爺様がここで出てくるのだ。寝ぼけておる場合か」
うへえ、これはどうしたことだ。私は一体どこで何をしているのだ?
???「ニューゲームにござる」
ん? ん?
あ!…ああ、なるほど。つまり、新しい立場で戦国乱世を生き抜けってことか。まあ確かにもう一度やり直そうかとか何とか、ついこないだ言ったけどさ、急にこういう形で始まるわけなのね。先に言っといて欲しいなあ。
???「万事急で、申し訳ございません」
まあ、結構。んで、今はいつぐらいで、わしは誰なのだ?
???「只今は天正九年、天下統一を目前とした織田信長が京の都で家臣の裏切りに遭い、あえない最後を遂げた直後でございます」
…うん、全然分からん。史実のわし(内藤昌豊)ってば、天正三年に討死しちゃったから、これは完全に初体験の時代だな。
???「シナリオは『天王山(1582年6月スタート)』。此度のあなた様は、真田安房守昌幸が嫡男、真田源三郎信幸として戦っていただきます。ゲーム難易度は中級、設定はデフォルト、仕える大名家はもちろん――真田家」
真田かあ。信濃と上州の一部しか持たぬ武田の家臣ではないか。この時代では大名なのか。押しも押されぬ天下の武田家が家臣という立場とは、全く異なる振る舞いが必要となりそうじゃ。
???「幸い、真田信幸は大河ドラマには絶賛出演中でございますので、無理に張り切って知名度を上げ、テレビ出演を果たそうなどというキャンペーンは必要ございません。無難に、堅実に乗り切ってください」
う、うるさい! 元々左様なことはしておらんかったわい!
???「それでは、無事を祈ります。武運があれば、この時代でもお会いいたしましょう(ニヤリ)」
ふう。相変わらず空恐ろしいが……なるほど。大体把握した。しかし、よりによってまあ、美味しいところを全てかっさらっていった、真田昌幸の嫡男とはなあ……。とは言え、ぼやいても始まらぬな。なんだかあっという間に滅ぼされそうな予感もするし。
1582年6月 終わらない激動の最中より
昌幸「……ろう、源三郎。何とかもうせ」
おっと、これは父上。
昌幸「寝ぼけておる場合か。武田家にとっては仇敵とはもうせ、信長が天下を取ると見て、わしらは膝を屈したのだ。にも関わらず、斯様に早々と局面が変わってしまうとは。早急に手を打たねば、我ら真田が危ういぞ」
むう。寄らば大樹の陰、という選択は、おそらくは真田のような小勢力には正しいもの。しかし、その大樹が倒れた、となれば…
昌幸「そうじゃな。織田はもういかん。北条か、徳川か、上杉か…潮目を読んで、よい止まり木を探すことが肝要となろう。源三郎、早速北条に使いを出せ」
ははっ。…やれやれ、これはまた忙しく立ち回ることになりそうじゃのう。