第二十七回 東国にて
(ある宣教師の手紙)
金ヶ崎城―1581年からの戦略―
さて、諸君。取りあえず今の我々の状況なんですがね。
角隈石宗「特に話し合うことも無くなりましたか?」
甲斐親直「左様。あとは各々の攻め口へ、兵の不足が無いように、気を使ってまいるのみにて」
龍造寺隆信「大将連中もその副将も、質と頭数、十分に揃ってる。もう懸念材料はねぇよ」
黒田官兵衛「あとは心静かに、事の推移を見守って参るのみ」
うーん、こうなってくるとエンドが見えてきた感が強くなってくるなあ。完全に、ヤマは越えた、か。
それも何の意味も無いね。残りの大名が全部まとまったとしても、こちらの方が上。もうパワーバランスを平衡に持っていくのは無理ってやつよ。さて、各チームに前進を指示して。あと、獲得した城とその周辺の道路の整備だけは間違いなくコミットするように、伝えておいて。
―遠江・浜松城下―
立花道雪「……将軍家には、鋒を収めず攻め立て続けよ、とか……」
島津義久「これから先、多少のつまづきはあっても、勝ち戦が続きましょうな」
由布「しかし、もうこれ以上戦をせんでも、生き残りの大名連中はビビッて簡単に臣従しそうなもんですがね。無駄な戦って気はしませんか?」
宇喜多直家「フフフ……そうではない。中途半端な力の誇示では、相手の胸中の反感を消し去ることはできぬ。さすれば、たとえ天下一統成るとも、安泰とは言えん。さすがは、大友宗麟。フフフ……」
道雪「……なれば、我らは圧倒的に勝利し続けるのみ」
―飛騨・桜洞城―
長宗我部元親「我らは越中への楔となり、越前から参る御屋形様の軍勢の攻めをお助けする。子供の砂遊びではないのだ。準備を急げ」
石田三成「(ちっ、うっせーな)はいはい、急ぎまーす」
加藤清正「はぁ、僕、二日酔い」
福島正則「ちょっとまってくれよ、リーゼントで兜被るの、大変なんだぞ!」
長宗我部「何なんだ、こいつらは……」
本願寺顕如「斯様な箸の上げ下げも分らぬような木っ端武者どもと轡を並べて戦など、迷惑至極じゃ。こやつらは田畑を荒らしに来るイノシシ撃ちでもさせておくのが、ちょうどよい使い道であろうが(まあまあ長宗我部殿、若い者にあまり目くじらをたてず。何ごとも経験から学びまする故に)」
長宗我部「……今回ばかりは、この坊さんの本音が出ても気にならんな」
―信濃・深志城―
鍋島直茂「はー、秋も深まって来たね。日本の四季は素晴らしい、っていうけど、この辺はやや寒すぎやしないかな」
井伊直政「鍋島様! 我らの攻め口のみ、進軍が遅れておるやに聞き及びます。そうのんびり構えておられては…!」
鍋島「あー、そう? んじゃ進捗確認しとく? えっと、飛騨ルートを取った味方が魚津城まで攻め込んで、能登・加賀は上杉本領から孤立。あとは御屋形様が暴れてお終い。これで上杉は終わったね。東海道ルートは立花軍団が浜松から掛川までを攻略し、蒲原城でついに関東の北条軍と初コンフリクト。ここは箱根でスタックするかもな―」
高橋紹運「鍋島殿、いい加減我らも信濃の敵を完全撃滅し、甲斐、上野へ兵を進めねば」
吉川元春「そうだそうだ、早く戦わせろ」
鍋島「まあ、焦りなさんな。深志の敵は強力、こういう相手にはシンプル&ダイレクトなアプローチよりも、数で押すのが一番……」
歳久「武将の役得ってなんかあんのかね、休暇が短い、たまに撃たれる……」
顕如「全く人使いの荒い主よな。やれやれ(頻繁なご下命は、ご信頼の証にござるぞ。お喜びなされ)」
―駿河・蒲原城―
宇喜多「フフフ、思えば遠くへ来たものよ……」
由布「いよいよ本格的に東国、って感じだが、この先には天下の険と名高い箱根が横たわっている。苦戦しそうだぜ」
義久「ただ、鍋島勢が深志攻めを成功させ、そのまま甲斐へ攻め入り、徳川家の躑躅ヶ崎館を落としたそうです。また、別動隊は北上して葛尾城、砥石城、飯山城を攻略中とか。これも近々陥落しましょうな。甲信二国はこちらのものになります」
宇喜多「と、なれば、鍋島の軍勢は甲斐から武蔵、あるいは信濃から上州へ入る。北条も、箱根ばかり見ておるわけにはいかぬな。フフフ……」
道雪「……三崎城の那須に使者を送り、馳走させよ。また、軍船を集め、兵を割いて伊豆半島の突端、下田城を攻撃させよ」
由布「はっ、こりゃ随分大掛かりな策をお考えで?」
道雪「……箱根の向こうは音に聞こえし小田原、易々と攻略できようはずがない。この箱根と小田原を併せて一つの城を考え、攻め立てる事こそ肝要ぞ」
宇喜多「フフフ、流石は道雪殿、思案が一つも二つも深く、大きい。フフフ……」
―備中・備中松山城―
松永久秀「なるほどのぅ。将軍家はかくも果敢に戦を続けられておるか。妥協の無い御方よな」
松永久通「父よ、何か思案されていることは無いのか?」
久秀「思案……? ハハハ、よせよせ。この松永弾正、これまで成算の立つ折にのみ、兵を挙げてまいったのだ。今、ここで何かしでかしてみよ。後世の者に後先考えぬたわけ者、暴発じじいなどと謗られ、果ては『あやつは己の首を敵に渡さぬよう、火薬を詰め込んだ秘蔵の茶釜を爆発させて死を選ぶような、頭のおかしい野心家であった』などと、望まぬ評伝を与えられるがオチじゃ。ハハハ……」
久通「では、我らの為すべきことは……」
久秀「戦はもうまもなく仕舞じゃ。向後は大友の天下。そこでいかに生き残るかを考えよ。創業よりも守成が難し、じゃ。博打ばかりしておったこの父よりも、久通、その方がこれからなすことの方が、何倍も厄介じゃぞ。まあ、何とか乗り切れ。わしには如何様にすべきか、皆目見当もつかぬ故にな」
久通「父よ……」
久秀「はぁ、やれやれ。しゃべり過ぎて疲れたわ。そろそろ休むとしよう」