今こそ均衡を崩す
(ある宣教師の手紙)
佐土原城近郊 ―1561年の戦略―
いやあ、島津と対陣したまま年を越してしまったな。とはいえ、我々のアセットは豊富な兵力と資源な訳で、長期戦になればなるほど負ける気はしない。
角隈石宗「仰せの通りではございますが、先に申されましたごとく、四国経略をお考えとなれば、話は変わってまいります。まさに時は金なり、早々に大軍を送って我らの力、知らしめねばなりませぬ」
甲斐親直「角隈殿の申される通り。ここは早々に島津勢の戦意挫き、御屋形様は四国に注力なされるが得策かと」
よし、では、この大友義鎮の戦、十分に見せつけてやるとするか!
龍造寺隆信「おいおいおい、なんでこの軍勢、足軽に槍を持たせてねぇんだよ。それに騎馬武者、どうして甲冑が兜と胴だけなんだ?え?」
おっ、これまでの経緯は水に流して、軍事顧問として新しく雇ってあげた龍造寺君じゃないか。そういう歩兵の密集や重装騎兵の突撃のみを前提としたドクトリンは古いな。では、これからきみのために、大友の戦の流儀を見せてあげよう。早いうち慣れていってね。
龍造寺(轟音の中)「何が始まったんだ、おィィ!」
フフフ。敵との会戦ではまず砲兵隊が十分な射撃を行い、敵戦列を崩したらすかさず歩兵が突撃縦隊で突進し、敵主力を拘束する。まあ、「砲兵が耕し、歩兵が前進する」と言った塩梅だな。さらに我が華麗なる騎兵部隊が敵側背に回り込んで包囲・撃破する。これよ、これぞ大友流の戦術よ。後の世でも使われるに違いない!
龍造寺「訳が分かんねぇ……おい、角隈さんよ、大友の戦ってのは誰でも全部こうやってんのか!?」
角隈「いいえ、御屋形様だけです。他の者はおそらくご存知の通りの陣法でやらせていただいておりますので」
龍造寺「そ、そうかよ。なんか、安心するべきなのか、不安を感じた方がいいのか、分かんねえな、これは……」
はっはっはっ、島津勢は算を乱して撤退を始めたな。では、深追いは禁物。こちらも一旦府内まで引き上げて、タスクを再検討するぞ!
―府内館―
さて、一息ついたところで、娘が髪結いを終えたんですね。親としては、この子の身の振り方を考えないといけないんだけども……
鍋島君は平戸に来ていた海外コンサルの方から沢山学んで、MBAの資格も取得しているそうだし、ここで彼との絆を強くしておくのは、元々人材に恵まれない我が大友家にとっては、コアコンピタンスになると思うんだよね。
角隈「(え、えむびい……?)成程、鍋島直茂との婚姻でございますか。しかし、鍋島はまだ仕えて日も浅く、若輩者でもあります。反発は必至かと思われますが……」
そうかもね。でも、そういう……なんていうかな、鎌倉以来のデファクトスタンダードみたいな保守思想に囚われるのはナンセンスだと思う。これからは能力第一主義でいくつもりだよ。なんつっても、私は主義が「創造」だからね。
甲斐「(いずれ激しい抵抗を受けそうではあるが……やむを得まい)ではその旨、広く家臣共に伝えましょう。さて、今後の方針を協議せねば」
ある程度のプランは準備しているので、目を通して修正ポイントが有ったら教えてくださいな。よければ、そのまま各武家とチームのみんなにアサインしていきます。
―土佐・中村御所―
木脇祐守「一条家の家名は残るよう、我が御屋形様がお約束下さっておる。一条殿、二度は申しませぬ。ご決断をなさるなら、今をおいて他にはございませぬぞ」
一条兼定「め、名門一条家の命脈もこれまで、か……」
木脇「土居殿、お見送り痛み入ります。……これでよろしゅうございましたかな」
土居宗珊(一条家家老)「我が殿には長宗我部から土佐半国を保つ力量などなく、その上に宇都宮、西園寺が大友の御屋形に降ったとあれば、既に選択の余地はありますまい」
木脇「領民を第一に思われる、土居殿らしいご判断ですな」
土居「……風の便りによりますと、”大友の御屋形は型破り”と聞き及びますが、仁慈の君であることを祈るばかりにござる」
木脇「……我が御屋形様は“やや”型破りとはいえ、そこはご安心あれ。間違いなく“やや”、にござれば」
土居「ふむ……」
―府内館―
木脇君、お疲れさん。一条家が持つ中村御所は四国から東進するのにベストの足掛かりとなるポイントだから、ここを得たのは大きな一歩だ。それから、伊予の河野家の方はどうだ?
木脇「はっ。只今、お下知に従い、鍋島殿が説得に赴いておりますれば、遅くとも半年のうちには良き返答がございましょう」
よしよし、順調だな。それが済んだら四国へ渡海の準備だ。鑑実、妙林を軸に、納富信景辺りに支度をさせておこう。しかし、四国に比べて戸次らに任せている島津攻めの報告が少ない……。高城、佐土原城に島津勢が攻め寄せているとか土持がやかましくノーティスを送ってくるだけだ…
甲斐「御屋形様、火急の報せに御座いまする」
甲斐「これにより、跡目は弟・鑑速殿が相続なされるとのことでございます」
ふむう……臼杵の当主が病床にいたせいで、戸次、志賀辺りが島津との戦闘に消極的になるハレーションが出ていたのか……?
角隈「それは分かりませぬが、戸次、志賀両家の動きが鈍いのは明らかです。戸次は戦に次ぐ戦で消耗激しく、志賀は領地から島津領まで遠いのを嫌っておるやに聞き及びますが」
甲斐「確かに、出陣の下知を出しても、即座に居城に引き上げるような戦意の乏しさが目立ちますな」
そこな。しかし志賀め、遠征に時間がかかるのが嫌なのはわかる。しかし、南北九州の道路事情がボトルネックになっているってのはハッキリしてたから、ここ最近、川崎祐長にずっと舗装工事させてるでしょ? 大分改善したよ? もうちょっとコミットしてくんないとなあ。
龍造寺「……義鎮さんよ、イマイチ言ってることが分かんねぇが、要は家臣が二の足踏んでるってことだろ? それなら自分でやるしかねぇよ。男だったらやってみろって」
ん、お、おう。それもその通り。まあ四国は不穏とはいえまだ大きな動きはないし、もう一度出陣するくらいのマージンはキープできるか……。よし、では自分でやってみよう! 何度目か分からなくなってきたが、島津攻めだ! 狙いは佐敷城、薩摩へ攻め込む橋頭保を取るぞ!
龍造寺「(なるほど。直茂と同じで、適当ぶっこいときゃ、意外と会話は成立するもんだな!)」
吉岡妙林「四国行きの準備をしていたら、急に肥後攻めの御下知なんて……でも、その強引さも素敵ですわ、義鎮様!」
納富信景(元龍造寺家臣)「……なんというか、やりにくいのう。この女人と一緒の戦は」
木脇「そういうものだ、と思ってみておればいずれ慣れるゆえ。気になさるな」
納富「……あれが気にならないと申すは、少々達観し過ぎでは?」
木脇「あっ、御屋形様!?」
埒があかないし、私みずからやって来たよ。そして蒲池家も援軍を送ってきたようだね。素晴らしい! ……やけにテンション高いのが来たから、うるさいけど。
百武賢兼「龍造寺四天王、百武賢兼参上! 大友家の諸君に我が武勇のほどをご披露いたす! 続けぇい!」
―隈本城の南・某所―
高橋鑑種「ふ、ふふふふふ……」
三田井親武「おっ、殿。いきなり笑いだされてどうなされた。ははあ、変なものを食されましたな? いけませんぞ、そこらに生えている野草の類は、全て食べられる山菜とは限りませぬゆえ、うかつに口に入れるようなことをなさっては」
高橋「そんなもん食わんわい! わしが笑っておったのは、御屋形と蒲池、それに戸次勢の一部が佐敷城で大激戦をやっておる、という様子だからじゃ」
三田井「お味方の苦戦がそれほど嬉しい? はっ、まさか殿、これを好機に独立などと……いけませぬぞ、それはいかん。そもそも殿程度の力量で独立しようなどおこがましいのに、左様な道義にもとる真似までなされては」
高橋「うっさいわ! わしが言いたいのは、我が方も島津も意識が佐敷城に向きすぎておる、ということじゃ。物見の報告では肥後の要衝・人吉城が空になっておるとか。これは好機だとは思わぬか。我ら一手のみにて人吉城を落とさば、御屋形も我が加増の請願、聞き入れぬわけにはいくまい」
三田井「なんだあ、ご褒美が欲しかっただけでござるか。これは失敬」
高橋「じゃかあしいわい! どさくさに紛れて言いたい放題いいよって。直参に戻してやろうか!」
おや、来てくれたんだ、鑑種。遠路はるばる、約10,000もの軍勢をお疲れさん。島津が佐敷の方に引っかかってくれたので、狙い通り人吉城の守りが空いたんだ。ただ、ボチボチ終わりが見えてきたし、私はこれから四国のプロジェクトを進めたいから、ここらで府内に帰るよ。ということで、後はよろしく。
高橋「……はい」
―府内館―
ふう、ひと段落。やはり硬直した状況を動かすのは自分の手しかないね。武家任せにせず、今後は各戦線に直轄城を置いておいた方がよさそうだ。さて、状況に変化はある?
鍋島直茂「はい、伊予の河野さんとM&Aの話を進めてきました。ご当主はちょっと渋ってましたが、あちらさんの家臣団の九割がアグリーしてくれましたんで、それで押し切ってきました」
一萬田鑑実「先ほど肥後から早馬が参りまして、佐敷攻めの軍勢は全て引き上げたよし。ただ、高橋鑑種殿、人吉城を攻め落としたとのことにございます」
ははは、頑張ってくれたな、彼も。これで投資に見合ったリターンは得た。しばらくは島津攻めは兵に余裕のある蒲池、高橋両家にまず始めさせて、然るのち戸次家に止めを刺させるくらいでいいかもしれないな。
吉岡長増「御屋形様、ただいま土居宗珊殿より使いが参り、長宗我部元親が軍勢、一条、西園寺の旧領をうかがわんとしておる、とのことですぞ」
おっ、ついに来たか……。いよいよ四国方面軍団をローンチするタイミングだな。鑑実、妙林と納富君を率いて伊予へ向かってくれ。そのあと時間差で、鍋ちゃんが後詰で後押しをお願い。よろしく!
一同「ハハッ」