海の向こうは梅とミカンの国
(ある宣教師の手紙)
中村御所―1566年から1567年の戦略―
鍋島直茂「御屋形様、丹波の波多野家が従属してきました。これは京の都から直近のとこにM&Aかけられるかもしれませんね。」
おう、着々と進むね。これがいわゆる「遠交近攻」策ってやつか。意外と上手くいくもんだ。三好との戦いもなし崩し的に始まったけど、結構いい感じじゃない? スケジュール的にも戦力的にも大分遊びが出てきたように思うな。
角隈石宗「左様ですな。おおむね、島津兄弟の戦闘力が予想以上であったことによる、とも思いますが……」
甲斐親直「御屋形様の御出馬もあり、立花道雪殿の軍団は、阿波桑野城を落とし、さらに東へ進んでおります。我らもさらに東進する好機かと」
龍造寺隆信「だな。もう木脇、鍋島に高橋紹運の部隊は揃えてある。命令あり次第、阿波の要衝・十河城攻めをはじめられるぜ」
ま、三好も中々だったけど、イニシアチブは常にこっちが握っていたからね。この戦いも先は見えたな。しかしこの戦いを通じて、前線で対等くらいの戦力を配置して敵を止めて、後方から部隊を送り込んで押しつぶす、というオペレーションを続ければ、戦力差で勝てるのがよく分かってきたよ。ま、そういう訳で十河城攻めの準備は鍋ちゃん以下に任せといて、私の方は一瞬別のことにとりかかろう。
角隈「何か、お考えが?」
戦力強化だね。しつこいようだけど、マンパワーが必要だから。
甲斐「……決断が果敢ですな、御屋形様」
まあ、なんだね。敵の当主だった武将ってのは、なんだかんだ間違いなくインフルエンサーだからさ。私では相性の悪い武将とも仲良くできる可能性が高いわけよ。元親なんか相当なもんじゃない? それに四国でベストな武将でもあるし、今後長く働いてもらう上で最良の選択だと思うね。
角隈「さようでございますか、しかしながら……」
忠誠心のほどは……とか言いたいんでしょ? そこはあれ、エルダー制度じゃないけど、古参と新参、うまくツーマンセルになるように任務にあたらせるから。そこら辺の調整は鑑実、鍋ちゃん、よろしくね。
一萬田鑑実「お任せください」
鍋島「じゃ、さっそく十河城を攻撃していきましょうかね」
吉岡長増「御屋形様、朝廷との交渉にあたっております日高喜から火急の報せでございますぞ」
ふっ、旗振り役だった三好長慶は参加してくれた大名にどうエクスキューズしていくのかね? しかし、これで三好サイドはどこにも頼れなくなってしまったようだな!
二か月で勝利か。ちょっと拍子抜けするくらいあっさり十河城も落ちたなあ。
龍造寺「救援にきた三好長慶の軍勢が、白地城から東に進む様子を見せていた面白兄弟に引き付けられて、十河城までたどり着けなかったのが、圧勝の理由だろうな」
角隈「これで阿波に残る三好の拠点は伊沢城、勝瑞城の二つですかな。引田城は我らと同盟しておる浦上家の持ち城ゆえ」
そうだねえ。あ、従属と言えば、そろそろ三村家を合併しておこう。今、彼らは備中高松城とか、あの辺りにシェアを持ってたよね? 今後の展開を考えると、そこは見逃せないんだなあ。
甲斐「(ふむ……御屋形様は新たな戦線をお考えか?)」
龍造寺「よく分かんねぇが、とりあえず鍋島にやらせるか?」
いや、我々の陣容を見た近畿の中国から近畿の小大名は震えあがっているだろうから、この交渉はそれほどタフじゃないと思う。ここは吉岡親子に詰めさせてみよう。我々は伊沢城、勝瑞城を一気に落とすよ。今の部隊配置、三好長慶は確実にテンパってるだろうから、ここはチャンスよ。
ほお、すべて思い通りにオンスケで進行してるじゃないか。やはり優秀な部下が増えると楽になるわ。あと、どうやら丹後の一色家が従属を願い出てきたらしいね。それも重畳。また養女も増えたし……っつうか、ほんとやたらと養女が増えるな。
鍋島「ところでM&Aに応じた三村家の武将連中、どうしますか? 結構やつら保守傾向が多いんで、あんま御屋形様と相性良くないです。忠誠度低いです。真っ赤ですよ」
おう、そこはあれだ。川崎祐長に頑張ってもらってた城井谷のセミナーハウス建設は終わってるでしょ? あそこに全員送り込んじゃって。
角隈「せみなー……何をなさるおつもりです? 確かに城井谷は出口をふさぎやすく、疑わしい者どもを押し込めるに向いた土地ではございますが……」
あー、いや、そういう訳じゃない。彼らに自然環境に恵まれた城井谷の研修施設で、我が大友家のコンセプトなんかをよく学んでもらって、内政作業でのOJTに加えて、共同生活を送る中でOff-JTなんかでもしっかり教育してさ、これからの自分に何ができるのか、真摯に自分と向き合って考えてもらう訳よ。そいでもってうちで働けそうな人をスクリーニングしていく、って感じかな?
角隈「(いよいよ分からん……)」
甲斐「確かに、当初反発的でありましても、単に時の経過によって、あるいは御屋形様の権勢ますます強大なものとなることで、考えを改め、忠誠度が上昇する武将もおりまする。そうして信用をおけるようになるまで、しばらく寝かせておく、ということでございますな?」
まあ、身も蓋も無くシステム的な感じで言えば、そういうことだね。さて、じゃ、三好攻めを一気に終わらせていきましょうかね。
三好長慶、采配をミスったな。まあ、十河城の救援をせず、勝瑞城に兵力を集中していたとしても、落とす自信はあったけどね。とにかく、これで我々は紀伊半島へ向かう港をしっかり確保できた訳だ。
龍造寺「宗麟さんよ、目出度い報せが二つ届いているぜ」
ふむ、四国から追い出されてがっくり来たかな、長慶も。あと、紹運の息子はきっと相当な武将になる。わたしにはそういう予感がしてるよ。西国無双の武将になるに違いない。……成人するまで戦が続いているかどうかはしらんけど。
高橋紹運「過分なお言葉、ありがとうございます。息子ともども、大友家の敵は誓って完全撃滅してご覧に入れます。という訳で火急の報せなのですが」
なにが“という訳で”なのか、君も大概話の前後関係がよく分からんね。で、それはいい報せなの? 悪い報せなの?
紹運「その判断はお任せします。先ほど、立花道雪様の軍勢、十河城より北の海を渡り、別所家の播磨・室津城へ攻め懸かりました」
はぁァ!?