第十八回 苦戦の訪れ
(ある宣教師の手紙)
勝端城 ―1572年の戦略―
いやはや、どうよ、諸君。昨年末から年始にかけて、いろいろあったよねえ、全く。
角隈石宗「記憶にない……とは……」
そうねえ。私の息子は三人のはずなんだけども、そのうちのどれでもない感じの名前だよね、彼。ただ、息子たちの中で誰よりも優秀になりそうな気がするのは、なんでだろう?
甲斐親直「跡目は嫡子の毛利隆元が継がれたそうです。ただ、我らとの同盟を墨守してくだされた元就公のご逝去は痛いですな……」
そうね、元就さんはこっちの言い分をメイクセンスしてくれてたからねえ。今後は毛利の動向がつかみづらくなるかもねー。
龍造寺隆信「いつもやってることじゃねぇか。取り立てて言うようなことか?」
実は、彼はちょっと特別、スペシャルな人材なんだよね。それに付け加えると、織田の家臣団の中にチラホラ忠誠心が低下して、ヘッドハントに応じそうな人が増えてるんだわ。だから連中のアセットの中から、一番切り崩しやすい人材の部分を攻めて、どんどんこちらに流出させていきたいとこだよね。
角隈「さて、ここからのご差配はいかがなされまするか」
甲斐「いずれの地域でも戦は停滞気味でございますな。何か梃入れが必要かと」
そおねぇ……アイドルタイムを取ってもいいけど、相手の休みにもなってしまうからね。よし、二方面に兵力を再編して投入していこう。まず立花軍団を正面に立て、河内の高屋城から大和路を通って大和を目指す。納富、木脇、平岡くんらが支援だ。んで、島津兄弟を軸に直属軍の主力は若狭から近江、越前へそれぞれ南下・東進を狙わせよう。この二面パラ進行で行ってみましょうか。
―若狭・後瀬山城―
島津義弘「よし、それじゃ軍を分けるぞ。俺と鍋島、紹運はこのまま東進して朝倉に仕掛ける。長宗我部と栗山、それに歳久は南下して清水山城を目指す。家久は後瀬山で後詰。いいな?」
高橋紹運「承った。誓って朝倉も完全撃滅してくれよう」
義弘「それで、俺たちは一気に朝倉を倒したら、次は上杉だ。いいな」
島津歳久「越後の軍神とやり合うの? 無いね、それは無い。あー、いや、無いって言ってくれ。頼むよ兄貴」
義弘「当たり前だろ。今、上杉と戦など始めるはずがない。冗談をまじめに受け取るな」
歳久「そう、冗談。あー、ほんと兄貴は大したもんだよ、冗談だってさ。まったく笑えない」
長宗我部元親「冗談ではなく、本当に飛び掛かっていきそうなのは、確かに分かる」
鍋島直茂「まー、コンセンサス取れたならどんどん進行させましょうかね。ここんとこ、ちょっと進軍が押し気味って指摘もありますんでね」
―河内・高屋城―
島津義久「軍勢の数は整います。四国の各城より続々兵が上陸中であり、また御屋形様の援軍が約二万ほど着陣の予定」
立花道雪「……これまでなら負ける要素など、無い。だが、織田の軍勢は手強い」
由布惟信「ほほう、殿にしては慎重な構えですな。攻勢有るのみ、ではないんですか?」
宇喜多直家「フッフフフ、立花殿は大和への攻め口の狭さを気にしておられるのであろう? フッフフフ」
義久「如何にも、ここから大和への入り口は、かの松永弾正が築いた信貴山城が扼しておりますな。堅城との噂も聞いております」
道雪「……軍を二手に分けよ。搦手より織田を揺さぶり、あくまで主攻は正面、信貴山城を落とす」
―勝端城―
黒田官兵衛「お初に御意を得ます。某、このたびお誘いにより参上いたしました、黒田官兵衛孝高にござります。以後、何とぞよしなに……」
おう、来てくれたか! 今後は我々のチームの力強い一員として……んんん?
官兵衛「いかが、なされましたか」
ん、あ、いや。きみ、前に会ったことあったっけ? なんかこう、どこかで見た気がするんだけど。
官兵衛「……よくある顔でございますからな。どなたかと混同されておられるのでは?」
いやあ、よくある顔かなあ。なんかあった気がするけど、でも、思い出さない方が良い気もしてきたよ。では気を取り直して、さっそく頼みなんだが、天下の賢者として有名な君に相談だ。今後の私が天下をマネジメントしていくにあたって、何か読んでおいた方がいいオススメのビジネスブックとか推薦してもらいたいんだけども。
官兵衛「ならば、『武経七書』はいかがでしょうか。他にも……」
―近江・清水山城―
栗山利安「なんかありましたか、長宗我部さん!!」
長宗我部「……今、俺が蹴散らした敵、金の唐傘の馬印を立てていたような……」
栗山「えッ、ホントですか!? でも、こんなしょぼい小城に無駄に派手好きの信長が自分で来ますかね!? 撃ち合いが激しかったから腰が引けて見間違ったんじゃないですか!!??」
長宗我部「……お前、なんかあらゆる方向に失礼なヤツだな……。まあいい、この城は落とした。幸い、敵勢は見当たらん。予定より前に出るが、このまま一気に南下して二条御所を奪うぞ。その方が御屋形様も喜ばれよう」
栗山「分かりました!!! 長宗我部さんも島津さんに負けず劣らず、イノシシ感満載ですね!!!」
長宗我部「……お前、本当に失礼だな」
―勝端城―
角隈「御屋形様、二条御所を長宗我部勢が落としたとのこと。おめでとうござりまする」
おっ、コミットしてくれてるねえ元親。まあ心のどこかでは『本当は俺がここの主として入城するはずだったのに、悪い時代に生まれた』くらいのことは思っていそうだけどさ。
角隈「御冗談を。それはそうと、これで我らは都を抑えたわけです」
天下、か……。確かになかなかリアルな手ごたえを感じつつはある。となると、私がどんなビジョンをもって今後のストラテジーを進めていくか、オリエンしていかないといかんだろな。
角隈「……何事も御屋形様の思う通りお進め下さいますよう。ただ一つ、大友家は清和源氏の流れを汲む頼朝公以来の名門にございます。天下を治めるとなれば、ふさわしき地位がござりまするぞ」
龍造寺「おう御屋形、早馬の報せだ! 立花軍団の大和攻めが失敗したってよ!」
甲斐「織田勢の勢い侮りがたく、立花勢は信貴山城、十市城いずれも包囲できずに多くの兵を失って高屋城へ引き退きました。その際、殿を務めました成松信勝が討ち死に。織田勢はなお信貴山城に軍勢を集め、高屋城へ迫る様子を見せておるとのことにございます」
むっ、道雪が成果を出せずに敗れるとは、想定の範囲外だった……。織田にも優秀な人材がまだまだ多いってことなんだろな。
角隈「御屋形様、いかがなされまするか」
そうね、ここは私が自ら高屋城を抑えて織田と向かい合おう。まー、厳しい戦は覚悟してたけど、ここまでくると、やっぱりそう簡単にはいかないねぇ、実際。