リゴレのレポート≪リゴレぽ≫ 第5回 店長と『マンハッタン』 presented by 龍鳳酒家

ボードゲーム愛好

「龍鳳酒家さんの海鮮料理同様、新鮮さを実感できますよ」

【リゴレのレポートって?】
「一生遊べるボードゲームをお客様にご提案したい」リゴレ店長と、「一生ボードゲームで遊んでいたい」ほ~らく奉行所の与力が、横浜中華街の有名レストランの一角で、ランチタイムにそっと繰り広げるボードゲームトークの様子をつづったレポート、略して「リゴレぽ」です。
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※掲載情報は2018年8月時点のものです。
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与力ほ~らく奉行所ボードゲーム方の買掛担当。「好きな海鮮食材はやっぱりエビですね」

店長横浜のボードゲームショップ・リゴレの伸居店長。ボードゲームと横浜中華街のお店選びならお任せ! 皆さまに愛されて一周年、ありがとうございます。

本日のテーマ:『マンハッタン』その1. 1994年のゲーム賞

店長きょうは『マンハッタン』でいきましょうか。

与力おお、この箱絵は今見ると時代を感じますね。

店長いやー、これはいいですよ。ホントいいです。100年先まで残って欲しい。超面白いじゃないですか。

ボードゲーム『マンハッタン』
ボードゲーム『マンハッタン』

デザイナーはアンドレアス・ザイファルト。1994年ドイツ年間ゲーム大賞受賞。世界6か所の都市に高層ビルを建設し、最高のビルオーナーを目指す。ザイファルトはこのゲームの後も『プエルトリコ』『郵便馬車』などで名声を確固とした。

店長『マンハッタン』はずっと気になっていたんだけど、遊んだのはわりと最近かなあ。

与力1994年のゲーム大賞ですか。もう四半世紀前って感じのゲームなんですね。

店長『ティカル』よりも前ですか。すごいな。ちなみに、こういう人いると思うんだけど、『マンハッタン』と『アクワイア』が頭の中で一緒になってた時期があった(笑)。

与力なんとなく、分かります(笑)。

本日のテーマ:『マンハッタン』その2. ビル王になるための運

与力まず、『マンハッタン』初プレイの経緯を教えてください。

店長勧められたんですね。プライベートで遊んでる会があって、「3人プレイで面白いゲーム持ってくよ」って言われて、持ってきてくれたのがこれ。正確には4人の方がエキサイティングな気もするんだけど、3人プレイも確かによかったです。

与力ほほう、なるほど。

店長持ってきてくれたのが、おもちゃコンサルタントの大先輩の人で、いつも遊びやすいゲームを持ってきてくれる方だった。

与力そういう方に選ばれるだけある、定番のゲームって感じですか。

店長うん、このゲームはこの先もずっと残って欲しいですね。なんか早くも結論っぽいこといってますけど(笑)。

与力いやいや(笑)。ですが、『マンハッタン』は、ゲームとしてはとてもシンプルなルールですよね。

店長シンプルですね、はい。

与力カードを出して、指定されている場所にビルを置くのを繰り返して、6か所のエリアにビルを多く、高く配置していく。チャンスがあればボード全体の中で一番高いビルの建設を目指す、というところだと思いますが。

店長だいたいそうですね。

与力昨今のトレンドになっているゲームからすると、非常にシンプルさが際立つゲームだと思うんですが、その中で感じられた良さ、というのはなんだったのでしょうか?

店長2つありまして、まず「目で見える」ということ。そして「夢がある」ということですね。

与力1つずつご説明いただけるでしょうか。まずは「目で見える」の方から。

店長ゲームの面白さって目で見えると思うんです。誰が優勢で誰が不利か、というのが、盤面を見渡せば分かりやすいから、次の手は何を目指せばいいか、分かりやすい。

与力攻防の様子が可視化されている、ということですかね。

店長ええ。あと、手札の引きがある分、運に左右されるところがいいですよね。

与力えっと、運の要素が全く無いと、実力差がある場合に勝つ人、負ける人が固定化する訳ですよね。

店長そうですね。

与力しかし、『マンハッタン』は、おそらく慣れという部分で勝つ確率を上げられることはあっても、必勝にはたどり着かない、ということでしょうか。

店長ええ。慣れれば慣れるほど運の要素が大きいな……と感じてしまうかもしれないんですが、相手の持っている手札は見えないですし、手札のめぐりは運のゲームですから、必勝の策はないですね。

与力やはりそうなりますか。

店長実際、ビルをここに置いても、後乗りされるかもしれない。置いても無駄かもしれない、と思っても、相手がその手に対抗する手段を持ってるか持ってないかも運なので、「えーい」ってやってしまうと、うまくいく場合も有ります。

与力気合一発、ですね。

店長そういう感じで、度胸で勝てちゃう場合もあるんですよね。運が絡むゲームには、度胸試しも発生するのが面白いと思いますよ。

与力博打を打つ場面、伸るか反るかの勝負を選ぶ場面が来る、と。

店長そういう場面がある、というのがいいですね。そこだけのゲームだと、「長い時間かけて結局、博打かあ」ってなってしまいますが、ゲームの流れの中で博打をする場面は自分で判断できるから、そこがいい。判断ができるって大事です。

与力勝負に行くタイミングを選ぶという決断のウェイトが大きい、というのが魅力なんですね。

店長どうしよう、っていうところで決断をするのは、やっぱり楽しいです。

ボードゲーム『マンハッタン』
手札のめぐりが勝負のアヤ。

本日のテーマ:『マンハッタン』その3. ボードに現れる勝負のゆくえ

店長判断についてもう少し話したいんですが、判断って一口にいっても、「数学的判断」と「いってこい判断」があって、ちょっと違いますよね。

与力だいぶ違うかもしれませんが、確かに。

店長常に「数学的な判断」を求められると、どうしても長考になりますよね。1アクション使って何点取れるか、ずっと考える。

与力理詰めで最善手を追い求める場面ですね。

店長そうです。ですが、『マンハッタン』は「そこまでいかないくらいの判断で決断していく」という気がしますね。

与力うーん。「最善手はこうかもしれないけど、それで本当に上手く行く保証はないので、さくっと進めてみよう」という感じですか。

店長ええ。数学的判断といってこい判断と、そのどちらにも振れ過ぎていないバランスだと思うんです。

与力なるほど。そういうバランス感覚が自分と合うのって、大事ですよね。

店長で、手番順がすごく大事で、基本的には後出し有利なゲームになっています。なので、スタートプレイヤーが時計回りに移動するんですが。

与力ははあ。

店長後手番の人は、より計算できるんですよね。「最終手番が来て、ここ来たらここに乗ろう」みたいに決めておく。ここで計画できます。

与力ふむふむ。

店長ですが、引きの要素があるので、計画は必ずしも成功しません。ただ、最初の計画が崩れてしまっても、そこから再計画はしやすいですので安心。

与力プランを立て直せるわけですね。「あそこ取られたからヤバイけど、こっちで取り返すか」みたいな。

店長この特徴は、勝敗がボード上で目に見えるからこそ、ではないですかね。

与力最近のゲームは、ゲームへの興味を失わせないように、「最終的に誰が勝者になるかぱっと見では分からない、ひっくり返る要素があるように見せておく」というのがトレンドだと思いますが、『マンハッタン』は、その流行と逆なところが面白い、ということでしょうか。

店長そうです。だからこそ、次の一手が見えやすい。そこが面白い点だと思っています。

ボードゲーム『マンハッタン』
ビルを建てよう。コマの造りはもう一捻り欲しいけど。

本日のテーマ:『マンハッタン』その4. ビルにかける夢・ドリーム。

与力ところで、『マンハッタン』の「ビル街というゲーム」のテーマはどうでしょうか。

店長いいですよ。さっき言った「夢がある」というのはそこです。

与力と、言いますと?

店長僕がルールをインストするときは、最初にフレーバーを一言で言うのが好きなんですけど、「世界を制するビル王になってください。じゃあどういうゲームかというと……」って始めるんですね。

与力ビル王とは壮大な響きですね。

店長いいですよね、ビル王って。夢がある。実際どういう存在かは、よく分らないですけど。

与力現職のアメリカ大統領的な?

店長かもしれません。後、ビルの乗っ取り要素があるじゃないですか。やることはすごく簡単な足し算なんだけど、解釈のしようによっては、「その物件に対しての影響力とか、株みたいなものなのかな」って、想像しちゃいますよね。

与力なるほどなるほど。テーマから想像が広がるのっていいですよね。

店長はい。ルール上は難しいことはやっていないんですが、なんとなく現実の難しいことを模してゲームをやっている感が感じられるんですよ。経済的なことをやっている気がする。相場ゲームにもそういうところはあるんですが、『マンハッタン』からは特に感じます。

与力現実のビッグビジネスを、ごくごくシンプルに再現している感じですか?

店長ええ。あと、「世界一高いビルは3点もらえる」というルールがありますね。あれはプレイヤー同士が競争しないと、絶対、世界一にならないんですよ。一番高いビルは建たない。

与力自然と競い合うようになると。

店長そう。僕は必ず言うんですけど、「競争って泥沼」なんですよ。みんなで積み重ねていって、得点もらえるのは1人だから。0が100かの世界なんです。

与力ああ、ビルの世界は厳しいですね……。

店長だから手を出さない方がいいんですが、何となく高いビルができてるし、「今1個ビルを乗っければ3点取れるな」という瞬間があるから、「乗って~乗られて~」みたいな泥沼に陥っていくんですよね。

与力ビル王の魅力には抗えない、と。

店長実は『マンハッタン』って「面積を取っていくゲーム」なんで、一点突破はダメなんですよ。だから矛盾してるんです。でもそこが素晴らしい。みんなで競争するとビルが伸びていくって。経済っぽくないですか?(笑)

与力経済っぽいですかね?(笑)ああでも、経済的に発展していると上に伸びやすいかも。

店長そういえば、「伸びる会社は社長がカリスマで、その下でおこぼれに預かりたい幹部が4、5人いるといい」って話を聞いたことがあります。僕はホントかどうか分かんないけど(笑)。

与力面白い学説ですね(笑)。

店長ともかく、そういう製作者の意図……とは断言できませんが、それが単なる1アクションの中に凝縮されているから、世界一のビルを建てると3点、というルールが利いていると思うんです。

与力まるで現実の世界をこのボードの中に凝縮しているような。

店長競争の中で経済って成長していくんだなあ、という実感が湧きますね。大人っぽいんですよ。決して難しいルールではないから、大したことやってないんですけど、経済的なことをやっている雰囲気が若干感じられる。

与力確かにそう考えると大人のゲームですね。「俺、いますごい不動産王だぞ」とか感じられる。

店長そうです。繰り返しですけど『マンハッタン』はやることは簡単なんです。ですが、実はフレーバーを大事にしてほしいし、やっていることの雰囲気が大事かな、と思うんですね。マンハッタンだったり香港だったりと地名がボードに書いてありますが、こういうので「マンハッタンのビル王になったぞ」みたいな実感が湧く。そういうところを含めて、好きですね。夢がある。

ボードゲーム『マンハッタン』
ボードの各所に散りばめられたナイスイラストも雰囲気を盛り上げる。

本日のテーマ:『マンハッタン』その5. これぞ“ザ・ファミリーゲーム”

与力この『マンハッタン』、リゴレさんがお勧めするとすれば、どういうゲーマー層に向けての提案になるんでしょう。

店長これぞファミリーゲームです。家族で遊んでほしい。10歳……小学校4年生なら十分いける。

与力ほほう。小4の内から「現実世界で競い合うって大変なんだぞ」と。「トップばかり目指してると足下すくわれるから、視野を広く持てよ」みたいな教育を施していくわけですか。

店長ええ。「やるなら叩き潰せ、その自信が無ければ手出しせず他の分野に進出しろ」って教えますね。

与力おお、古代ローマの格言みたい。

店長世界一のビルは、取るなら取り切らないとダメですよ。そうでないとただのエサです。他のプレイヤーに3点与えちゃうんですから。取れないなら面積取った方がいいんです。そこは判断するように教えますね。

与力ビル王の道は険しいなあ。

店長実はこのゲーム、リゴレに初めて来ましたよ、ボードゲーム初めてですよ、という人にも勧められます。ちょっと別のゲーム遊んでから「これなら絶対できますよ」って形で出しますが、みんな面白い面白いって遊んでくれます。ボードゲーム初めての人に最適です。

与力それは凄い。さすがドイツゲーム賞取るだけありますね。

店長この時代の受賞作品は、本当に遊びやすいですね。僕もこの時代のゲームでボードゲームに惚れてますからね。今のゲームに慣れてるゲーマーさんからすると、軽いと思えるものも多いかとは思いますが。

与力『マンハッタン』はルールの難易度とかプレイ時間を見ると「中量級くらいのゲームかな」と思いますが、要素がシンプルである分、ゲーム中の一手が重いですね。

店長ははあ、そこで重いって表現をしますか、与力さん。

与力シンプルであるだけに、色んな要素を包含した一手じゃないですか。決断が重いですよね。『提督の決断』的な。

店長『提督の決断』って、分かる人どのくらいいるのかなあ(笑)。

与力話が逸れましたが、『マンハッタン』はリゴレさんが提案するゲームとしては、『ティカル』などと同じポジションに入ってくるのでしょうか? 家族の真ん中に、という。

店長そうですね。『ティカル』より簡単だから勧めやすいですよね。買ってみたらルールが難しくて遊べないよ、という事故が非常に起こりづらいゲームです。ボードゲームを始めてみたいというみなさんに勧められるゲームですね。

与力カードゲームなんかから入って、「しっかりしたボードのあるゲームを遊びたい」という方々への最初のゲームとして選択肢に入ってくる、ということですね。

店長はい。それだけに再版されたのは素晴らしいと思います。よくぞ再販してくれました。

与力新版(韓国・mandoo games版)がアークライトさんから発売されましたね。だいぶカラフルになりましたけど。

店長そうですね。台湾系のイラストレーターさんで、アメリカで活躍されてる方って、ああいう絵を描くんですよね。コミックと絵本の中間みたいな。なんかインターナショナルな感じがして、僕は好きです。

リゴレ店長 マンハッタン
「一家に一個、『マンハッタン新版』です」

与力新版になっていつでも入手しやすくなった、というのは非常にいいですよね。

店長ですね。ゲーム全体は中近東……ドバイ辺りを意識した感じになってるかな。

与力ゲームボードがコンパクトになって、無国籍な感じになりましたね。

店長コマが透明な樹脂製になりましたね。僕はいいと思いますが、旧版の現実感、経済ゲームやってる感はちょっと薄れましたね。こちらの方がファミリー感が強い。

与力ますますファミリーで楽しめるゲームになりましたかね。

店長そうですね。ボードゲームは何より遊べるというのが大事ですよね。それで、遊べるというのは、身近な人と一緒に遊べるというのが大事。多くの場合、一番身近になりやすいのは家族ですから、家族みんなで遊べるゲームは本当に大切です。あとはいろんな場所へ持っていきやすいゲームとか。遊ぶ機会が増えますからね。そういう要素ってボードゲームには本当に大事な気がするんですよ。

リゴレ店長 マンハッタン
「今遊ぶ『マンハッタン』と渡り蟹、どちらも新鮮です。これは甲乙つけ難いですよ」と、キャンペーンボーイな店長であった。

残暑が収まることを期待しつつ、9月に一周年を迎えるリゴレでボードゲームはいかがでしょうか。イベント日は公式ホームページをチェック。