「リゴレの夢でした」
- 【リゴレのレポートって?】
- 「一生遊べるボードゲームをお客様にご提案したい」リゴレ店長と、「一生ボードゲームで遊んでいたい」ほ~らく奉行所の与力が、横浜中華街の片隅でそっと繰り広げるボードゲームトークの様子をつづったレポート、略して「リゴレぽ」です。
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- 【登場人物】
与力ほ~らく奉行所ボードゲーム方の買掛担当。2人プレイが基本なので、バッティングゲームとはなかなかご縁がないのが悩み。
店長横浜のボードゲームショップ・リゴレの伸居店長。リゴレではいつもハッピー&スマイルです。
ゲーム会で必ず盛り上がったゲーム
与力よろしくお願いします。今回取り上げるゲームは『Xing(バッティング)』でしたね。
店長あ、僕が『Xing』って言ったんでしたっけ。
与力はい、そうですね(笑)。お忘れでしたか。お疲れですね。
店長じゃあ、それで喋ってみます。
与力まず、『Xing』についての基本的な情報ですが、2012年に篠原遊戯重工さんが出された国産ゲームですね。
店長2012年ね……もう7年前ですね。
『Xing』(篠原遊戯重工 2012)
ゲームマーケット2012秋発表。場に置かれた宝石を指さしで指定、他プレイヤーと被らなければ獲得できる。ただし、2ラウンド目以降は各プレイヤーが獲得して手元に置いている宝石も指さし対象となるので、これを防いで得点化するアクションを行う必要が出てくるが、そうするとその後1回休みになってしまうので……と、シンプルながら悩ましさに満ちたバッティングゲーム。
与力それで、まずは月並みなところですけれども、『Xing』とはいつ頃出会われたのかな、というところからお願いします。
店長多分、2013年には出会ってるんですよ。で、リゴレの最初の活動で、ゲーム会を出張リゴレの形でやってたんですね。『青猫』ってバーでやってたんですけど。
与力バーでボードゲーム、おしゃれですね。
店長その時に知り合ったおもちゃコンサルタントの方がいまして、その人が持ってきてくれたゲームが『Xing』だったんですよ。で、遊んだらすごい面白くて。
与力面白さがすぐに分かった、という?
店長その場にいた人たちって大半ゲームやったことない人たちだったし、今ほどボードゲームがブームとか騒がれてなかったんですよね。でもなんかあっという間にみんな引き込まれてしまいまして。『ワードスナイパー』の時もそうだけど、誘引力がすごいなあと思って。
与力いわゆるゲーム慣れしてない人に届く力が、ってことですね。
店長見てて面白いしね。やってることが。それでなんでこんなに面白いんだ、欲しいなと思ったんですけど、入手性が非常に低かったんですよ。
与力専門店でも中々入手できない、というような…。
店長確かそうです。ゲムマに行かないと買えない、みたいな状況だったのではないですかね。だから「次のゲムマで買ってきてあげるよ」みたいに言ってくれた方に頼んで、自分の分を確保したりしてたんですけど、もうゲーム会で見る人見る人欲しがって、しょうがないから「いいですよ、譲りますよ」とか何度かあったりして。
与力手元に来ても滞在期間が短い?(笑)
店長そうでしたね。自分の所に『Xing』が入ってきて出てって……みたいなことを結構4、5回繰り返してましたね。
与力4、5回も? なかなか無いですね、そういう体験は。
店長で、リゴレを開店してから、『Xing』委託で受けたいってこっちからオファー出したんです。
与力なるほど、そこまでの体験に基づいた「これは絶対いいゲーム!」って確信が原点なんですね。
店長お店がちょっと落ち着いたといいますか、ちょっと自信が出てきて、「売りたいもの売りたいなあ」って思いまして。篠原さんにメール送ってみたら、「いいですよ」って言ってくれて、ここにも来てもらったりしたんですね。
与力一気に話が進展しましたね。
店長ところが、そこから篠原さんとてもお忙しくなられて。1年くらいですかね、「10個作ったら送るよ」みたいなことをなんとか1回か2回やっていただけました。
与力うーん、まぁまぁリゴレには来てましたが、見かけなかったですね…。
店長入る度にあっという間に売り切れちゃってたんで、タイミングが合わなかったんでしょうね。とにかく面白いんですよ、『Xing』。
出版を目指して
店長という経緯でリゴレで出版したいな、と思ったんですけどね。ちょっと話が変わりますけど、自分でちょっとしたゲーム会主催するようになったりすると、ゲーム買うようになるじゃないですか。自分の趣味とも違うような。
与力そうですね、色々買いますね。
店長そうなってから新しい視点を学んだんですよ。もう無くなってしまったんですけど、すごい女性のお客さんばっかりしかこない、『ハッピー&スマイルカフェ』っていうのが有ったんですね。そこでもゲーム会を開催してたんです。
与力すごい女性のお客さんって表現もすごいですね?
店長ハワイをモチーフにした、中華街にあったカフェだったんですけども。
与力中華街、店舗の移り変わりが激しいですもんね…。
店長そうですね。いやあ、もうすごかった。お客さんも店員さんもみんな美人でね。ウキウキしてたんだけど、当時。
与力ははあ、名実ともにハッピーでスマイルなところだったんですね。ところが、いつのまにかその桃源郷が消えてしまった、という。
店長残念ながら消えてしまいました。で、そこにも『Xing』持っていったら、ゲーム知らない人でも、やっぱり分かりやすいじゃないですか、『Xing』のシステムって。でも、何かしら高度なことやろうと思えば高度なこともできるし、もちろんそんなことを狙わなくても「キー、悔しい!」みたいになるから、何か心が動くんだよね。
与力誰でも楽しめる、という面白さが鮮明に見えたんでしょうか。
店長そうですね、だからいいな、と感じていて。それで、篠原さんに相談して売りたいなと思ったんですよね。
与力ところが、篠原さんが手掛けているやつはなかなか大量生産という訳にはいかない、という問題が有った、と。
店長そうですね。本業でやっておられる訳では無い上に、プライベートでお忙しかった時期でしたので、篠原さんもそんなに作れなかった訳です。
与力そこがリゴレさんとしては、いいゲームなだけに、惜しいというか。もったいないというか。
店長販売やり始めて、『ワードスナイパー』手掛けて自信がついたのもあるんですけど、やっぱり「好きなこと、好きなゲームを売った方が上手くいくわ」っていうのが、結論としてはあるんですね。
与力自分が楽しいゲームをお勧めしていく。
店長そう、情熱的に売れるんです。『Xing』はずっといいな、いいなって思ってたんで、ちょっと一歩突っ込んだ話をさせてもらって、「『ワードスナイパー』ではこういうふうにやって、こう上手くいったから、『Xing』も、是非そういう風にやりたいんですけど」って話をしたら、「じゃ、ちょっと会って話をしましょう」って話になって、で、OKもらって、というところです。
与力そういえば、第1回のリゴレぽの感想コメントで、「店長おススメの国産ゲームを知りたいです」というコメントを頂いてたんですけど、まさに、それに当てはまりますね。
店長あ、確かにそうです。これはめっちゃいいですよ。
与力で、以上が出版にこぎつける過程なんですね。
店長そうですね。篠原さん、すごく話しやすい人で。話はすんなりいきましたね。後はこれからいっぱい販売して恩返ししたいな、と。せっかくやらせてもらうんで(笑)。
時間がかかった出版プロジェクト、その理由は?
与力そのプロジェクトが実際に動き始めたのが、ちょうど『ワードスナイパー』の後の話でしたから、去年(2018年)くらいですか?
店長そうですね。そこからこれは僕の良くないところなんですけど、大分遅くなっちゃったんですよね。篠原さんに会ったのが今年の春くらいだったんですよ。
与力2019年の春ですね。
店長本当は、今年の秋のゲムマに間に合わせたかったんです。あれに間に合わせるようにやりまーすって言ってたんですけど……いや、ちがう。もっと前だ。
与力ん? もっと前から話が始まっていた?
店長春のゲムマ(2019年5月)の前にお話したんだ。で、春は篠原さんが久々に復帰して、自分で販売するから、って仰ってて。それで被っちゃうとよくないね、バッティングしちゃうと良くないよね、って話になったんでした。
与力『Xing』だけに。
店長そうそう。それで、そこは間に合わないから、よろしくお願いします、って言ったんだけど…だから3月くらいから話してたんですね。
与力ああ、なるほど。
店長思い返してみると、非常に時間かかりましたね……。
与力で、11月に入って、8カ月後も間に合わなかった、と。
店長そうなってしまいましたね。長引いた理由は、まず……。
与力『スカルキング』ですか? あちらも色々なハードルがあったとのことですから。
店長うーん、それも有りますね。ただ、『ワードスナイパー・イマジン&キッズ』『スカルキング』は同時に進めていてですね。ところが『Xing』に関しては、僕のノウハウに無いやり方だったんですよ。
与力あ、そうなんですか?
店長これ、モック(編集注:モックアップの略、実寸大の見本や模型のこと)なんですけど。
店長これは幾つかポイントがありまして。日本じゃ多分絶対にできないと思ったんで、中国の工場を探さなきゃ、ってところから始めたんです。
与力コンポーネント的な問題ですか? 『Xing』は特徴的なのがこの樹脂製の宝石ですが。
店長もうちょっと色々あります。で、『グルームヘイヴン』作ってるよ、っていう会社がゲムマに来てて、そこと話させてもらって。
与力あ、ゲムマに営業に来ていた中国の工場と、ゲムマで話したんですね?
店長ああいえ、話すところまではゲムマでしないんですけど、大体名刺置いていくんですよ。カタログと。なんか私たちの技術です、みたいなやつですね。
与力ほう、さすが熱心な。
店長それを見て、これなら大丈夫そうかもと思って、で、一回仕事のメール送ってみたんですね。そしたら…他のゲームデザイナーさんにも聞いたんですけど、中国の人は仕事早い早い、今。すごいです。
与力ははあ、そんなにですか。
店長今は世界のボードゲーム工場になってるって聞きましたけど、なるほどでしたね。むこうに「どんなことがやりたいの」って言われて、それでラフで「こんな感じなんです」って送ったら、すぐにサンプル送ってくるんですよ、それの。
与力すごいレスポンスの早さですね。
店長一番最初に、「箱に透明の窓をつけられる?」って聞いて……なんだっけ、あれ。そう、『ベルズ』。あれも透明な部分が有って、ベルが見えるんですけど、あれの画像送ったら、『ベルズ』の箱をコンパクトにして作ったサンプルを、いきなり送ってきたんですよ。それで、こういうことがやりたいんだ、というのを伝えて、そこからは結構話の進展が早かったんですけど…ちょっと見積もりとかで苦労しましたね。サンプルの行き来がやや多かったんで(苦笑)。
与力それがあった分、大変だった、と。
店長そうですね。どうしてもそうなりました。
与力『Xing』に関しては初めての試みが入るものだし、やはり好きなゲームだから、というので、作りにこだわった、というところもある?
店長そうですね。まず、箱には絶対入れなきゃいけないんで、箱にこだわりました。
与力最初のバージョンは、この袋のやつですよね。これがかなり特徴的だったと思いますが。
店長そうそうそう。それもそれでなかなかカッコいいんですよね、目を引いて。バックに入ってるゲームって、例えば『クゥワークルトラベル』とかもあの袋に入ってるからいいな、ってところが有りますし、ああいうやり方もありかな、とは思ったんですが、今回は箱を選びましたね。
与力それは、箱ならではのメリットという点が判断材料になったりしたのでしょうか。
店長ええ。一番は「流通の時に箱がないと、ちょっと難しくなる」んですよね。お店での置き場所・収納の面でもデメリットがあります。立てられないですから。それで損をするのは……。
与力なるほど、見た目のインパクトと、難しい天秤でしたね。
店長それから宝石ですね。宝石を取り合うのが『ハッピー&スマイルカフェ』で、みんなに受けた要素。宝石って目にすると欲しいじゃないですか。ルール説明とかの前に。
与力はあはあはあ。『ダイヤモンド』とか、宝石のコンポーネントが出てくると、自分のものにしたくなりますね。
店長欲しいものを取り合う、っていうゲームを遊ぶ時に、分かりやすく欲しいモチーフがあるっていうのは、やっぱりいいですよね。
与力確かに、そうですね。なるほど、こだわった理由がよく分かります。
タイトル変更を見送った。
店長あと、タイトルもちょっと考えまして、『Xingプラス』にしようかなあ、なんて。あと、ルールもちょっと色々考えて、2人用で遊べるようになったりとか、結構改良を加わえてるんですよね。
与力ゲーム内容も、もう一度詰めた訳ですね。しかし、タイトルまで考え直すとは?
店長いや、実は『Xing』を出す前から分かってた欠点が1つあって、それが“SEOに弱い”。
与力あー、なるほど……。
店長検索してもまず出てこない。まあ野球選手が出てくる出てくる。
与力そうですね、僕も下調べで検索したら、“バッティング上達極意”みたいな広告が出てきました。バッティング違い。
店長なので、うーんと思って。今時のボードゲームのマーケティングの話って、Twitterなんかではよく流れてきますけど、「“検索しやすい”というのが絶対条件だ」っていう話はその通りだと思ってるし、僕もそこは考えたんです。しかしですね。
与力そこで逡巡した?
店長「バッティングゲームです」って言ってもどういうゲームか分からない人に、バッティングゲームを売っていきたいので、「バッティング系ゲームといえば『Xing』だよね」と、そこまでタイトルを育てていきたい。
与力なるほど、「バッティングゲームって、『Xing』のことだよね」という、代名詞的な、そういうポジションにまで行けるようにしたい、と。
店長そう、それです。ルール的にも無駄なものは一切ない、削ぎ落して分かりやすい、面白い部分しか残ってないし、行ける、と信じています。
与力あ、ルールの話が出たので一番聞きたかったところなんですけど、旧バージョンは4人からでしたね。しかし、このモックの表示では2人からになっています。これは?
店長はい、2人はですね、完璧に2人用ルールっていう違うルールを用意しました。両手を使って遊ぶんですけど、これが結構ガチになります。だから一応通常のおススメ人数は4から6人になってます。ただ、3人いれば十分楽しいかな、とは思いますね。
与力2人専用ルールは、リゴレさんの新しい工夫なんですね。
店長そうですね、ベスト人数問題もちょっと色々あるんですけど、2人でやれるかやれないか、というのは結構大事で。これ、3人いた方が面白いゲームとか、2人でも面白いゲームとか、3人じゃなきゃダメとか、2人でも面白い、とか、結構大事なんですよね。
与力確かに、「2人からできるゲームか?」というのは、当ほ~らく奉行所でも購入条件の1つに入ったりします。
店長ボードゲーマーって、まずゲームありきで人数考えるんです。3人のゲームだから3人いなきゃ、とか、4人のゲームだから4人いなきゃだめ、ってなりがち。もちろん、それはゲームを大事に遊ぶ上ではとても正しいんですよね。
与力なるほど。
店長でも、家庭に置かれるものとして、ホビーとして考えたら、2人で遊んでも楽しいし、「これ3人いたらもっと楽しいから、友達呼ぼうよ」でもいいんですよ。ベスト人数を追うのは、遊んでみたあとでもいいですから。“まず遊べる”というのは結構大事だと、そう思ってます。
与力それで2人専用ルールが来たわけですね。
店長でも、とってつけたような2人用ルールじゃよくないので、そこは篠原さんが考えてくれて、結果的に2人用の方がガチになる。非常にガチになる。本当にガチですよ、2人は(笑)。
与力自信があるならやってみろ、やれんのか、オイ、という。
店長はい。自信があるなら。やばいです。ただまあ、バッティングゲームは往々にして人数多ければ多いほど楽しくなることは確かですけど。
与力複数人の意図が絡み合って、1人だけが最終的には勝つ、みたいなパターンになると非常に面白いですね。
店長ちなみにですね、最大人数で5人、6人で遊べるゲームっていいんですよね。3人、4人、5人、6人と遊べるゲームって非常に。僕がお店を出す前に出張イベントやってた頃は、6人で遊べるゲームってあんまり候補が無くて…そんなに無かったように記憶してるんですけどね。
与力ふむふむ。
店長そういうところですごい活躍しましたね、『Xing』は。人数制限の広いゲーム。
与力リゴレのゲームは『ワードスナイパー』3種類、『スカルキング』そして『Xing』と、その点が共通しているのは、店長のそういう経験からなんでしょうかね。
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