「ルール動画よりプレイ動画」
『Xing』、その源流は。
与力さて、前回に続いて、『Xing(バッティング)』のゲーム性という部分の魅力についてもう少し話して頂こうかなあと思うんですが、初出の2012年というと、ボードゲーム界的には一昔前な感じですよね。
店長そうですね。確かにそうですね。
与力海外でいきますと、2012年はこういったラインナップなんですよね、発売されたのが。
店長ははあ、『ツォルキン』とか出てるんですね。『アンドロイド:ネットランナー』……うわあ懐かしい。あ、『レジスタンス:アバロン』って2012年なんだ。確かにちょっと昔の感じが。『シーズンズ』とか。『アンドールの伝説』も強いなあ。なるほど。
与力2012年話題になった、今でも生き残ってる『テラミスティカ』とか『ツォルキン』とか有る一方で、結構忘れられたなあ、みたいなゲームもある訳です。
店長それはそうですね。
与力で、2012年のトレンドと2019年のトレンドっていうのは、多分違うと思うんですね。その2012年のゲームを2020年にリバイバル、復刻という形で出してくるというのは、その『Xing』というゲームのどういう部分が、今のボードゲームファンに届く、という風に考えられたからなのでしょうか。
店長うーん……。……まずそもそも、最新のゲームを届けた方がいいとはあんまり思っていなくて、ですね。元々なんですけど。これは多分「普遍的に楽しいものに触れてもらった方がいいから」と思っているから、かなあ。
与力新しさ云々ではない、というのがそもそも前提だと。
店長むしろ「時代にとらわれず、面白くて完成度が高いゲーム」の方がいいかなあと思ってて。今のゲームシーンでは、最先端のゲームがやりたい人の層の方が多分薄くて、それよりは単純に楽しいって度合いが強いもの、シンプルで楽しいものが欲しいって言うフェイズだから、そっちを出した方がいいなあ、と、そんな考えです。ごめんなさい、質問の答えになってない。
与力いえいえ。「ボードゲームを遊ぶ」となった時に、「すぐにその面白さのコアの部分、楽しさが分かるのがいいゲームだ」と、依然、『ラビリンス』の時に仰っていたと思います。そういうことでしょうか?
店長そうそうそう。『ラビリンス』はそうですね。あれは分かりやすいですね。後はなんでしょう……こういうゲームって、遊ぶ人に依存するところが大きいので、一緒に遊ぶメンバーで楽しいか楽しくないかがかなり左右されるんですけど、でもそれって逆のこというと、本来ゲームって仲いい人とやるんですよね、普通の場合は。
与力まあギスギスした場にゲームを出されても、っていうのはありますね。
店長だから家族とかで遊んで楽しむだろう、って言う姿が想像できるんですよね、『Xing』も。おじいちゃんと娘さんとリゴレにゲームを買いに来られたことがあって、すごい楽しそうに遊んでたから。「じぃじの宝石が欲しい」みたいな感じで。そういう感じはいいんですよね。
与力なるほど。そういう“ボードゲームのあるべきシーン”にフィットするゲームである、と。
店長そうですね。でもね、これ、すっごいいいところがあって、もしも動画を作るとしたらこういう単語使いたいんですけど、「サバサバ遊んでも楽しいけど、ネチネチ遊んでも楽しい」んですよ。
与力はあ。といいますと?
店長僕は特に交渉とかはしないで、普通に指さして、取れるか取れないかって言う狙いであそんでたんですね、基本。でも『Xing』のルールでは、「嘘をついたり、交渉したり、相手をだましてもいい」って明記されてるんです。
与力あれ、結構えげつない。
店長で、篠原さん、実はあのサークル破壊ゲーム……なんでしたっけ、有名なやつ。
与力『ディプロマシー』ですか?
店長そう、『ディプロマシー』から来てるんだって。『Xing』。
与力え、そうなんですか!?
店長篠原さん、『ディプロマシー』が大好きで、「すごくイヤな思いするけど、とてつもない感動が起きるから、人生で一度は絶対やった方がいいですよ、伸居さん」って言われました。で、『Xing』は『ディプロマシー』から来てるんだそうです。
与力へええ。それは全く想像つきませんでした。
店長それを聞いて僕も「えっ」と思いましたね。だから、ライトに遊んでも全然楽しいんだけど、仲のいい人と遊ぶ時は僕、結構ネチネチモードでやりますね。「僕、そこ取りに行くのでバリア張った方がいいですよ」って言って、取りにいかないとか、「僕、絶対ガードしないんで」とか言っといて、わざと沢山呼び寄せるとか。ガードしていなくても、みんなが指さししてくれば、バッティングになって取れないですからね。そういうプレイができるんですよ。そっちも楽しい。
与力なるほど。急に口三味線の駆け引きモードだ。
店長若年層のプレイヤーで、ゲーム経験は多くないけど「人狼みたいなことがやりたい」とか、「駆け引きがやりたい」みたいな方って結構いらっしゃってですね。
与力ああ、なるほど。読み合いをやりたいってことですか。
店長読み切った時がカッコいい、って感じでしょうかね。読み合いのゲームが大好きで、ずっと遊んでる方とかもいらっしゃいますが、そういう層向けにも、実は全然いけたりする。
与力そんな心理戦ゲームだったとは…。
店長ただ、そういう方向での発信は正直あんまりしてないので、今後動画などでそういう発信ができてもいいかなあ、とか。親子でワイワイやってるほほえましい『Xing』と、どんよりとして緊迫感漂う空気で「それ絶対行くからね」とか「じゃあ〇〇さん、そっち行ってください。僕、こっち行きますから」みたいな会話が飛び交う、胃が痛くなるような『Xing』も見せたいなあ。
与力なんというか、年齢層高めの『Xing』現場、と。
店長いずれにせよ、遊ぶ状況によって、面白さが変わってくるのは確かです。
与力参加してるメンバーの顔触れ次第、遊び方次第で、遊びの幅を広く取る、大きく広げられる訳ですね。
店長そういうことですね。
与力ボール1個有っても、蹴るのか投げるのか次第で大分ちがうと。そんな感じですか
店長そうですね。そういうの大好きです。
リゴレ印のゲームに共通の感覚
与力そういえば、以前『スカルキング』の話をうかがったときに、「『スカルキング』ってゲームカフェだと重宝するゲームだと思うよ」っていう話されてましたけど、『Xing』もその方向ですよね、ルールの分量や人数の幅という点で。
店長そうかもしれないです。あの、しばしば「重量級ゲーマーって増えてないよ」って話を小耳にはさむことがあるんですけど、それイコール、現在のボードゲームシーンに直結している訳では無い思っていまして。
与力と、おっしゃいますと?
店長ボードゲームを遊ぶ人数というのは男女問わず絶対増えていると思うんですね。ただ、どんなゲームを遊ぶかという点では、どちらもやっぱり簡単なゲームが圧倒的に多い。つまり、ラッパを伏せた型の……あ、ピラミッド型って言えばいいかな? そういうグラフを作っている訳ですね、いわゆるゲームの“重量”を基準にした場合。
与力ははあ。
店長いずれにせよ、ルールが簡単でプレイ時間も手軽な……『ナンジャモンジャ』とか、ああいうワンアクションのカードゲームとかへの需要がすごい有る訳です。リゴレのゲームだと『ワードスナイパー』はそこですね。
与力なるほど、そういう状況で、『Xing』はどう迎え入れられると予想しておられます?
店長はい。そうったゲームが強いんだけど、『スカルキング』を遊んでもらってる環境がちょっとずつ増えてるんですよね。正直、もっと売れないと思ってました。だから、経験値を貯めたプレイヤーも今は増えつつあるんだ、という過渡期になってきたように思います。「面白いゲームだ」っていう情報が伝わる速度も速くなってますしね。
与力なるほど、それはあるかもしれないですね。
店長それで、やってみようと思ってくれたとか。そういう状況から見れば、『Xing』は『スカルキング』よりもずっと簡単ですし、十分遊んでもらえると思ってます。
与力確かに、ルールという点では『Xing』は簡潔ですね。
店長全然簡単です。あと、なんかこういうゲームって持ってて損が無い感じがありませんか? それこそさっき言っておられたように、ゲームカフェにも1個置いてあっていいというか、持ってて損の無い感のある、使い道のあるゲームって僕好きなんですよ。
与力ゲーム展開でオモシロが生まれるゲームですよね。プレイ次第で色んな面白さが楽しめる。前の話の繰り返しになっちゃいますが。
店長実際、『Xing』は、無言で黙々とやっても、ジリジリとプレッシャーかけながらやっても面白いし、テンションの高い人たちが「取るなよー、やめろよー」みたいな感じでも楽しいし、一斉にギャアギャア言いながら遊ぶのも楽しいし。
与力どういう遊び方にも応えてくれる。
店長そういうゲーム、好きですね。「楽しい」といっても色々ありますから。ルール的な点で言えば取っつきやすくするために簡単にした方がいい、って僕は考えがちなんですが、慣れるほど難しいプレイに挑戦したくなる人もいる。
与力ほほう?
店長実は『ワードスナイパー』を非常に難しいハウスルールで楽しんでおられる方もいらっしゃるんですよ。そういう方向に工夫して遊んでくださっているっていうのは、本当に嬉しかったですし、新しい発見でしたね。「上達の楽しみっていうのが有るんだ」っていう点で。
与力単純な遊びやすさだけを考えておけばいい、という訳でもないと。
店長そうでないとゲームが使い捨てみたいになっちゃいますよね。一回の“Fun”で終わりになっちゃう。そこから“Interest”に進んで欲しいから。掘り下げとか、そういう余地があっていいなあ、って。
与力それこそ“間口が広くて奥行きが深い”っていうゲーム、楽しむって方向でもいけるし、競技性というか勝負を突き詰めることもできる、そういうゲームの方が息が長くなる、というところでしょうか。
店長そういうのは大事かなあと思います。簡単ならいいって訳でもないけど、難しくて通好みでもいい訳でもないっていう。
与力そのバランスが、リゴレが出版するゲームをチョイスする上では、重要な要素になっているんでしょうか?
店長運ゲーの中にもちょっとこう、やっぱり判断がないと。ドイツゲームの良さはそこじゃないですか。僕が惚れた。
与力運と判断のバランスが取れてるってことですね。運だけでもダメだし、判断だけで確実に勝てる訳でもない。
店長『Xing』は正にそこなんですね。運ゲーって割り切っちゃうとダメで、実はこれ勝つためには色々とあるので。手が。面白いですね。
与力ふうむ、想像以上に深いですね。
店長あと、インストしてて嬉しいんですよ。「さあ、今から面白いことやるんですよ、みなさん」みたいな感じで。うちが出してるからなのかなあ(笑)。
与力いや、思い入れがあるから出版されるわけで(笑)。
店長でも面白いことを説明してる感があるんですよね。これから面白いことが始まるっていう感触が有るから。そういう点で、『Xing』は『スカルキング』の時に力を入れたルール動画よりも、プレイ動画の方が大事かな、と思ってるんです。楽しそうに遊んでる動画ってのが宣伝としては大事だと思うですよね。それに加えて1つ上手な説明の仕方動画も作りたいなあと思っています。
与力今作もQRコードが付く訳ですね。
再びデザインの話、そして発売
与力ちなみに今回は「出版にまつわる苦労話」みたいのは有りましたか?
店長そうですね……ゲーム作る時って、普通見積もり出したときに、制約の中で考えていくんですけど、今回「何でもいいよ」って言われたんで、ある程度こっちが、見積もり出す前に「こういう感じで、こういう風にしてください」みたいなのを全部作らなきゃいけなくて、それがちょっと大変だったかもしれないです。
与力フリーハンドを与えられたがゆえの難しさ、ですか?
店長日本国内で作ろうとすると、「カードゲームです」「カード何枚ですか」「50枚です」ってやり取りしたら、見積もり割と早く帰ってくるんですよ。こういうパターンの中で決めますよ、というのが有るので。でも今回は仕様全部指定できちゃうから、逆に大変だったです。
与力なるほど。自由とは難しいもの……。
店長特に窓の大きさとかですね。設計なんかできないから、ちょっと書いてみて、「こういう感じでできるかなー」っていうようなの。
与力この透明の窓は特徴的ですものね。あと、今回のデザインはasobi.deptさん系です?
店長asobi.deptさん系ですね(笑)。本当にasobi.deptさん万歳ですね。鈴木ヒロキさんにお願いしています。
与力切り絵っぽいイラストを描かれてる方ですよね?
店長あ、そうですね。切り絵でポリゴンぽく見えるというか。鈴木さんの宝石の絵がすごく良くて、それでお願いしました。
与力宝石、キモですものね。
店長そうそう、このダイヤモンドのイラストのデザインなんですけど、『ドラえもん』に出てくるダイヤモンドがモデルです。ファミコンの。
与力あー! なんと懐かしい…。
店長あのダイヤモンドって、ダイヤモンドダイヤモンドしてていいなあって思って。あんな感じで、ってお願いして書いてもらいました。
与力無茶苦茶ダイヤモンドですね(笑)。
店長そして箱のサイズは、ギリギリ持ち運べるような大きさにしてます。
与力えっと、『ライナー・クニツィアの戦国時代』サイズ。
店長(笑)。そんな感じ。そのサイズ。
与力小箱なんでしょうかね、少なくとも中箱まではいかず。
店長その線です。持ち運べるって結構大事だと思うんですよね。
与力持ち運べるかどうかは確かに重要です。さて、今(注:取材日)はいよいよ発売に向けての段階ですか?
店長今(注:取材日)パッキングしていて、印刷全部終わって、アッセンブル、つまり組み合わせて、シュリンクして、配送用の段ボールに詰め込む、という段階です。
与力で、もう年末年始くらいには届く?
店長そうなるといいですね。まだハッキリとは言えないんですが。(編集注:取材当時は詳細未定でしたが、2020年2月に発売されました!)
与力春休みくらいにはガンガン遊べる感じでしょうか。
店長是非とも遊んでもらいたいです。ちなみに発売に関する情報は、リゴレのTwitterやホームページで公開していきますので、是非チェックしていただければと。
与力楽しみですね。そういえば『Xing』って最初にタイトル見た時に、初期のK-1のリングで見たな―、とか思ったんですよね。
店長そりゃ、『エクシング』ですよ(笑)。