ファイユーム(ボードゲームプレイ感想編)

ボードゲーム愛好

『ファイユーム』で遊んでみた

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【登場人物】

奉行藩の決裁担当。エジプトと言えば?「なぜかロードランナーが浮かんだが、別にあれはピラミッドじゃなかった。ピラミッド繋がりで、マイティボンジャック。王家の谷。黄金の爪」

与力藩の買掛担当。エジプトと言えば?「アガサ・クリスティー…ん? あの方はどっちかというと古代メソポタミアでしたっけ?」

中王国時代第12王朝…?

奉行ア、アメンエムハト3世…って、誰?

与力えっとですね、紀元前2040年あたりから始まったと考えられているエジプト中王国期第12王朝第6代のファラオです。第12王朝は第11王朝のメンチュヘテプ2世の宰相だったアメンエムハト1世が、王の死後に位を奪ってファラオになったところから始まっています。

奉行 数字が訳わからんのう…。

与力アメンエムハト3世のピラミッドは2つあるそうですが、ハワラってところのやつが有名っぽいですね。あと、説明書に出てくるセソストリス2世ってのは、アメンエムハト3世の祖父にあたるセンウセレト2世の別読みっぽいかな?

奉行わしはクフ王のピラミッドとスフィンクス程度の知識だよ、エジプトは。あと、お味噌ならハナマルキぐらいだ。

与力吉村作治先生、懐かしいですね。ともあれ、彼らの時代にファイユーム・オアシスの開発が進んで、広大な農地が造成されたと。それがこの『ファイユーム』というゲームの舞台設定です。

奉行なるほど。ゲームの勝敗には関係ないが、若干とは言え没入度が変わるでな。そういうのも分かる範囲では分かっておきたいのよ。

ゲームの準備を開始します。
ゲームボードを広げ、所定の位置に集落、道路、ワニのコマを配置します。各プレイヤーは自分の担当する色を決め、その色の初期カード5枚、名声マーカー、名声トークン、管理アクション早見表カード2枚を受け取ります。そして名声マーカーは名声表の0のマス、名声トークンは49のマスの下にそれぞれ配置しておきます。
次に、山札とカード市場をプレイヤー人数ごとのルールに合わせて用意します。この時、最初に使う山札と、4枚の自然災害カードが入った12枚の「災害の山」が作られます。
スタートプレイヤーを適当に決めたら、手番順に最初の所持金を受け取ります。手番が後になるほど、所持金は増えます。
最後に、コマと貨幣トークンを種類ごとに分けてまとめておきます。これらは数量制限があるもの(足りなくなったら使えない)と無いもの(足りなくなったら代用品で代用可)に分かれますので、注意しておきましょう。これでゲームの準備は完了です。

ファイユーム
ボード中に広がるワニの群れ。

ナイルワニ、体長は4m程度

奉行で、我々は開拓のために大量のワニを駆除する業者なのかい。

与力いや、ワニは駆除することになりますが、それがゲームの目的では無いですね。人が住めるようにファイユームを開発し、集落や街、工房などの設備を建てて、これにはファラオもニッコリ、といった土地にするのに一番貢献できた人が勝利します。

奉行ふむ、ワニは開発された土地かどうかを確認するマーカーでもありそうじゃな。

与力そのための行動は手札で行いますので、うまくカードをやりくりしていきましょう、というところがこのゲームのキモですね。

奉行はーん、デッキビルド的な要素があるということなのかな。

『ファイユーム』のプレイ自体は非常に簡単です。各プレイヤーは自分の手番になったら、以下の3つの行動の内、1つを選んで実施するだけです。

  1. 手札をプレイする。
  2. 市場からカードを購入する。
  3. 管理アクションを実行する。

これをゲームの終了条件が満たされるまで続けます。ゲームが終了した時に、名声点が最も高いプレイヤーが勝者となります。

奉行手順は確かに簡単だけれどもね。いざとなると悩むのじゃろ。

与力それはまあそうですけれども、1つずつ説明しますね。

①手札をプレイする。

ファイユーム
初期手札。全プレイヤー同じセットが配られている。

与力これはもうそのままで、手札から使いたいカードを出して、効果を適用するだけです。

奉行簡単…簡単だが、カードの意味するところが分からんぞ。

与力付属のリファレンス冊子をご覧ください。適宜参照できるようにしておくとよいですね。

奉行ふむ、何かを収穫するか、建設するかみたいな感じだな、大きく分けると。

与力そうですね。初期手札でいうと、「農夫」は収穫するカードですね。農夫コマを置いたマスの対応する資源を1個、またワニがいれば退治してお金を手に入れます。

奉行強いな、農夫。ワニハントが可能なんだ。

与力「開拓」「道路」は、だいたい収穫した資源を消費してボード上に建設を行いますね。名声やまとまったお金を手に入れる手段がこちらになるかと思います。

奉行ふむふむ。資源を確保して建設で名声、つまり勝利点を獲得していく。基本の流れはそういうところになるのじゃろうな。

ファイユーム
入植することでプレイヤーは名声とお金を手にし、ファイユームに集落が出現する。これら建設物が、さらにゲーム展開を多様にしていく。

②市場からカードを購入する。

奉行稼いだ金を握りしめて市場へ向かう行動か。

与力その通り。新しいカードを購入すると、初期手札ではできない、より効果的な行動をとれるようになります。ですので、強そうなカードは積極的に購入していきたいですね。

ファイユーム
市場。どこかでみたタイプの。

市場には3から7のお金と引き換えに購入できるカード4枚と、将来購入可能となるカード4枚の、合計8枚が並んでいます。また、購入可能なカードの上に値引きトークンが載っていれば、1安いお金でカードを買うことができます。

奉行おお、これは『電力会社』…!

与力そうですね。あれと同じように、カードには全て固有の識別番号が振られていて、小さい番号のカードから順に購入可能になっています。

奉行セリではないから、欲しいカードがあれば好きなタイミングで買いに行って良いのだな。なんと気楽な。

与力気楽なんでしょうかねえ。購入したカードは手札に入り、市場には山札からカードを補充して並びなおしを行いますよ。

ファイユーム
このように、より強力な資源入手手段などが提供されるので、市場はよく見ておきたい。

③管理アクションを実行する。

与力このゲームで最も重要な瞬間が、この管理アクションを選択するときかもしれません。

奉行さほどにか?

与力手札を使っていけば、いつかは無くなります。それを回収する方法がこのアクションなんですけども。

奉行まあそりゃな。カードを購入して手札を増やすといっても、手札をプレイできなければいつか資金は枯渇しようし。

与力ところが、そこが一筋縄ではいかないようになっているんですよねえ。

管理アクションでは、いくつかの処理を順番に行っていきます。
まず、「3から残っている手札の枚数を引いた数のお金を獲得」します。
次に、「ボードに配置されている労働者コマを最大2人まで取り除き、取り除いたコマ数に等しいお金を獲得」します。
そして、「自分の捨て札の山の上から3枚を手札に回収」します。この時、「1金支払うごとに追加で1枚のカードを回収」できます。
最後に、プレイ人数に応じて市場のカードを入れ替え、値引き対象になるカードにトークンを載せます。

奉行うむむむむ、この手札の残り枚数による最大3の収入をどう評価するかなのか。

与力です。「市場からカードを買って手札に入れ、使ったら然るべきタイミングで回収」とだけ聞くといわゆるデッキビルディングゲームなんですが、このゲームでは普通にいくと「最新の使用カード3枚」しか戻ってこないんです。

奉行有利なカードは早めに打ちたいが、手札が駄々余りすると基礎収入が目減りするし、逆に手札に戻すのにお金がかかってしまうんだな…。しかも、手札に必要が無いカードが入ることになる。

与力とはいえ、戻すことを考えて使うのが後回しになっても、手が遅れますしね。

奉行うーん、使ってすぐ回収!をやってしまえばいいんじゃ?とか思うが、もしかしなくても、そこで市場の更新という別の問題がやってくるのか?

与力ご明察。管理アクションで市場の更新が行われるごとに、山札が消費されます。これがゲームの終了トリガーにつながっているんですよ。

奉行無計画な早打ちは、十分な勝利点を得られない可能性…。急に決断することが増えてきたな。

ファイユーム
開拓されるファイユーム。より高得点を得るカードを使うためには、さらなる発展が必要だ。

セベク神はワニの神

与力さて、ゲームが進行していくと、市場が更新されていきます。基本的にゲームの進行につれてカードはどんどん強力なものが出現するようになり、ゲームの展開は派手になっていきますが…。

奉行いかにも、小麦やらブドウやらがザクザク収穫できるし、集落も都市にグレードアップするようになったぞ。

ファイユーム
ファラオの宮殿まで造営されました。分かりにくいですけど一応金色なので、ただの家コマではないんですよ。

与力しかし、山札は尽きます。そうしましたら、ゲーム開始時に作っていた12枚の「災害の山」を使うことになります。

奉行あれか。『電力会社』の「ステップ3開始」みたいなことだな。

与力この12枚の中には、「自然災害カード」が4枚含まれていて、これが市場更新の時に引かれると、将来出てくるカードの場所を1つ潰してしまいます。識別番号が大きいので、並び替えで購入可能にはなることはありません。

奉行ははあ、カードを強制的に購入可能な所へ押し出す役割なのかな。

与力で、自然災害カードが4枚出たら、ゲーム終了の合図です。以後、プレイヤーは「手札をプレイする」「市場からカードを購入する」のほかに、「自然災害カードを1枚取ってゲームを終了する」の3つから行動を選択することになります。

奉行管理アクションが行えなくなる、ということは、収入も手札回収も期待できなくなるということね。全部使い切りたいなあ。

与力ところが、自然災害カードには、名声点が付いているものがあります。早めに投了すると、これを獲得してゲームを終えることができるんですよ。粘った挙句にあんまり手が伸びないと、なにもメリットが無いカードを引き取って終えることになります。

奉行止め時を見極めよということじゃな。うーん、難しい。

ファイユーム
最終的なファイユーム。ファラオ巡行は果たせぬも、奉行が与力に30点以上の大差で勝利。

与力6点の砂嵐獲得しましたけど、全然届かなかったですね。

奉行まあ0点の旱魃に見舞われるよりは、救いのある災害だったんじゃないの。

『ファイユーム』【ここがイカス!】

与力さて、ここまで細かい所をはしょってのご紹介でしたが、いかがでしょうか。

奉行面白い。買おう。

与力簡潔ですね。

奉行わしは『電力会社』をすごくいいゲームだと思っておるが、あれよりもさらにプレイ感は軽く、一方で悩みどころは大きく、といった塩梅に変化しておった。

与力グレードアップしていると?

奉行似ているとはいえ、いろんな要素が加わっているから単純な比較論にはならんし、わしのプレイしてないフリーゼ作品の要素とかの方が色濃いかもしれんので、シンプルにそうだとも言えんけどね。

与力それは確かにその通り。慎重なご意見です。

奉行しかし、デッキビルディングしてみるものの、カードのプレイ順を間違うと余計な手間やら出費やらがかかり、それが積み重なると勝利へ向けた致命的な失敗になるという塩梅は見事よな。

与力そうですね。あと、市場のカードの更新状況をよく見ていかないとダメですね。

奉行ゲームの進行と歩調を合わせて、徐々に識別番号の大きい優秀なカードが市場に出てくるようになるんだが、初期手札とは毛色がちょっと違うなという効果のカードが増えてきたら、それは稼ぎ方の方向性を再考するタイミングなんだよな。

与力いわゆる「手を進める」タイミングですね。

奉行いつまでも石炭火力じゃなくて、どっかで原子力や風力に振っていかないと、というアレね。単純な資源獲得、集落・道路建設ではなく、集落を使って何かを稼ぐとか、資源を増やせる工房を建てるとか、そういう方向性を模索していかないといけない。

与力市場の動向からそれを読み取るのが遅れると、私みたいに大負けを喫しますね。どうしても最初に作り上げたエンジンに固執しがちになっちゃうんですよねえ。

奉行自分の手札の周り方を考えつつ、市場を見つつ、ボード上の状況も見つつで…考えどころは多いけど分かりやすいと思うし、まあその、最終的にゲームエンドして得点計算してみるまで趨勢が全く分からないというところもないのでね。ゲームの見通しもすごくいいと思うよ。

与力そういえばボード上に建てた建物は全員共有になるというのは見逃せないですよね。

奉行曲がりなりにもファラオのために開拓を成功させようという背景設定があるので、フレーバー的な目的は同じになるからね。しかしその中で上手く他人を踏み台にしつつ手柄を立てていくと…お、そういう要素もあるんだな。整理すると色々出てくるね。

与力その割にゴチャゴチャしてないのはゲームデザインの妙なんですかね。

奉行うむ。という訳なので、これはおススメのゲームじゃな。昨今のゲーム事情で言えばヘビー級一歩手前、クルーザー級くらいの重さでやり合うゲームが欲しければ非常にいいと思う。

『ファイユーム』【ここはちょっと…】

奉行いかんせん、箱がでかくて緑。

与力それの何がいけないんですか。

奉行言ってみただけだよ。ほら、インテリアと調和したお洒落なパッケージを求める人もいなくはないだろうから。

与力そういう話は置いておきましょう。

奉行では真面目にやるか。カードがオールユニークなのは楽しくてとても良いのだが、初見プレイではいったいどのカードにどのような効果があるか、皆目見当がつかん。これは全てアイコン表記であるからだろうな。

与力アイコンが意味する所がそもそも分からないですからね。

奉行付属のリファレンス冊子で、全カードの効果が丁寧に解説されておるので、それを見れば分かる訳だが、確認作業の連続で、さすがにプレイのテンポを著しく欠くことになったな。

与力こればっかりは慣れなんでしょうね。アイコンで全てを表記しているゲームは、独自の言語体系を持っているみたいなことを言われたりするので…。

奉行うむ。ともかく初プレイならリファレンスは欠かせない。慣れるまでは人数分用意してあると助かるんだがな。というわけで、テンポ悪いと思っても初プレイだったら、そこは一旦目をつぶってあげて欲しい。

与力左様でございますな。

奉行ゲーム的には紹介しなかったけど、ワイルドの資源として使えるバラとか、お金を払うと足りない資源1つの代わりになるとか、ワニハントとか、「全く何もできない」という状況に陥ることはない仕掛けが用意されているので、ストレスは無かったかも。ただまあ2人プレイだったからな。4人以上だともっと厳しいのかもな。

上下逆にするとタコに見えてしまうのだが、バラ。

与力その人数だと開拓があっという間に進みそうですねえ。

奉行あと、最大の懸念はあれかな。拡張が発売されるのかどうか。

与力あー、カードの識別番号はなぜ偶数しかないか?ってやつですね。

奉行そうなのよ。どうやら奇数番号は拡張で追加されるみたいなことらしいんだが、出るのかね? そして日本語版になるのかね? そこが一番ちょっと、というよりも、心配な部分かもな。

ファイユーム
ボードの裏面を額装して飾りたい誘惑にかられる。

与力ワニがアクセントになっていたゲームでしたが、アフリカの水辺で最も危険な生物はカバだと言われていますよ。現代でも彼らは年間で約500人もの死者を出します。縄張り意識が非常に強く、近眼なので、近づいてくるものには容赦しない性質が影響しているとか聞きますね。入場時のスタン・ハンセンに近いということです。前もどっかで話した気がしますが。

奉行不沈艦? ブレーキの壊れたダンプカー? ていうか若い方は分かってくれるの、その例えは?

与力で、古代エジプトでは悪魔の使いと恐れられていたカバの退治は、ファラオの力を示す行事の一つとも言われています。ただ、第一王国の創始者であるメネス王は、カバ退治に行って逆に殺されたと伝わっていますね。

奉行侮れんな、カバ。カバオくんとかイソジンのカバとかを見る目が変わりそうだ。

与力なお、エジプトのワニについては、タイガーフィッシュ観察に行ったジェレミー・ウェイドさんがちょっと語っておりますので、参考までにそちらもご覧ください。カバも出てきます。

奉行お主は本当にディスカバリーチャンネルが好きだね。

https://youtu.be/oegDCdjtWv0